第101話 歩行介助

 俺は今もエイマーに抱きしめられている。若干顔もだらしなくてなってきてそうな気もする。


「じゃあ他の仕事に戻るからまた始まる時には教えてね。あと、ケントくんは無理しないようにね!」


「わかりました」


 エイマーは俺の何かを感じたのだろう。俺は違う意味で何かを感じそうになったがまだまだ体が子どもだ。


「おい、顔がにやけてるぞ」


「いや、にやけてないよ」


 俺はすぐに表情を戻した。元々イケメンの顔はこうじゃないとな。


「くくく」


 なぜか二人は笑っているがそれは無視しよう。


「よし、ウルは置いて練習しようか」


 俺は立ち上がり扉の方へ向かった。


「おいコラ! 俺は悪くねーからな……ちょっと待てよ!」


 ウルはチラチラと俺を見ていた。俺はラルと共に部屋を出た。


「何で俺を置いてくんだよ」


「ウルがケントくんをいじるからだよ? 今からケントくんに教えてもらうのに」


 そうだそうだ!


 もっと言ってやれ!


「あっ……すみませんでした」


 意外にもウルは素直だった。ラルフだったらもっといじってくるだろう。


「ははは、気にしてないからいいよ! お互い同い年なんだから楽しくやっていこう」


 孤児院で兄弟がたくさんいたウルはどこか弟気質なんだろう。





 俺はまずコルトンの歩きを再現することにした。実際にどのような歩きをしているか理解してもらう必要があったのだ。


「おい、ケントそれは遊んでるのか?」


「いや、実際こんな歩き方をしていたからね」


「おっ……そうか。どこか朝帰りの冒険者みたいだな」


 ふらふら歩いていたらどこか酔っぱらいに見えたのだろう。


「今からどこを支えれば歩きやすいかやってみようか。まずはウルからやってみて」


「おお、任せなさい!」


 まずはウルが俺の右手を持ち手引きで歩き出した。


 俺はコルトンが倒れやすそうな右前方にふらつくとウルは支えきれずそのまま倒れた。


「おおお、大丈夫か?」


「はい、失格! 転んだら骨折する可能性もあるから何が何でも転ばせないようにね。ただ初めて介助するには上手だけど片手手引き歩行はリスクも高いから気をつけてね」


「わかった!」


 もう一度行うとウルは何を思ったのだろう。


「ウルくん? やる気あるのかい?」


 今度は体をガチッと支えて歩き出した。もう意地でも転ばせないようにしたいのか、逆に俺の歩きを邪魔するぐらいの重りになっている。


「いや……だって転ばさせないようにするにはこうやってガッチリ掴むしかないじゃん?」


「じゃあ少し力を抜いてみて?」


 ウルが少し力を緩めるとそのままの勢いで俺は倒れた。


「力を入れ過ぎると逆にその人の重りになるから力が抜けた時にそのままの勢いで倒れて行くよ」

 

「あー! もうどうすればいいんだよ」


「じゃあウルが考えている間に次はラルの番ね」


 ラルはケントの両手を持って歩き出した。ウルの時とは違い両手で手引き歩行しゆっくりと歩く方に誘導している。


「おー、ラルのほうが上手いね」


「へへへ、ありがと……ええ!?」


 気を抜いたタイミングで俺は足を躓くとそのまま倒れた。


「はい、ラルも失格!」


「ケントくん急には酷いよ……」


「えっ? 大体転ぶ時って急に起きることだよ。いつも転ぶかもしれないって気をつけながら介助するのが大事だよ」


「それはそうだけど……」


「あとここに段差があるのはわかってた?」


「あっ、歩くのに必死になって気づかなかったわ」


 俺はわざと躓いたのではなく段差があったためそこに引っかかったのだ。


「こういうところに引っかかる可能性も考慮して、視野を広げて歩かないと転ぶかもしれないからね」


 俺の指導は厳しめにやったはずだが、ウルとラルも負けずと質問したりお互いにどうやったら歩きやすいか試しながら練習をしていた。



――一時間後



 介助の仕方は概ね理解してきていたが中々上手く誘導しながらの歩行介助はまだできていなかった。


「試しにケントにやって貰ってもいい」


「いいよ」


 患者役をウルと交代した。俺はウルの左手と右脇を軽く支えた。


「よし、歩きましょうか」


 ウルはわざとその場で前のめりに倒れようとするが、脇に入っていた手で止めた。


「ウル残念だったな」


「くそ!」


 俺は軽く左に体重が乗るように誘導させ、自身の歩くペースとタイミングが同じになるようにウルの体重移動を促した。


「あっ、あれ? 勝手に足が出るんだけど……」


「だってそうやってるからね」


 俺の歩行介助はウルやラルとは少し違う。


 理学療法士というのもあり転ばせないようにガチガチに固める歩行介助ではなく、歩行を誘導させ危険なところを抑制させる歩行介助をやることにした。


 これも理学療法士としての腕の見せ所だ。


「やっぱケントは違うな」


「でもウルとラルもだいぶ上手になってきたよ。まずは転ばせないことが大事だし、これを忘れないように日程が決まるまでは練習しておいてね」


「はい!」


 二人は思ったよりも真面目だった。それだけ今回のコルトンの介護に力を注いでいるのだろう。


 外れスキルが外れじゃないと言われるようになることを俺は祈った。

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