第100話 現実
「誰でも出来ることに俺達って必要なのか? そもそもなんでこんなスキルがあるんだ?」
それを言われても俺もスキルに関してはわからないことばかりだ。だから外れスキルって言われても納得する部分でもある。
「誰でも出来るってのは間違えでもない気もするけど……例えばトイレに行くとしても尿意が近くて一時間に数回も行けばどうかな?」
「何回も行く必要があるから――」
「行くこと自体が負担になるってことだよね?」
「そうだね。じゃあそれが夜に行かないといけなくなったらどうする?」
「んー、頻繁に一緒に起きないといけなくなるのかな?」
「そうか! 介助する人が寝れなくなるのか」
「そういうこと。介護は介助する人が亡くなるまで毎日休みなく介護や介助をしなきゃいけなくなる。それを助けるためにも介護福祉士は必要なんだよ」
他にも介護福祉士としてやることは沢山あるだろう。職種が違うため正確にはわからないがみんなでその人を考えるチーム医療の一員なのだ。
「大変だな」
「でも何で今までそういう人がいなかったんでしょうかね?」
エイマーはなぜ介護が必要な人が今まで居なかったのか疑問に思っているようだ。
俺も気になっておりメリルに聞いていた。
「この国は貴族以外は生きていけないと思います」
「どういうこと?」
「まず根本的に病気になったらどうしますか?」
「んー、近くの医院に行ってそれでもダメだったら教会に行く」
「そうだね。ウルが言う通りの順番で治療をしていくね。でもそこで治らない病気はどうなる?」
俺に言われて三人は気づいた。治らない病気であれば待っているのは"死"という選択のみ。
この世界に来て思ったのは回復スキルや魔法も万能ではないってことだ。
そして体が動くことができれば介助は必要ない。
「そうなると介助が必要になる人ってどういう人だと思う? 病気以外であれば大きな怪我が中心になると思うけど、例えば足が動かなくなったらウルならどうする?」
「困るな……」
「じゃあ家族にも迷惑かけて収入源もなくなればどう考える? ラルならどうする?」
「私なら仕事も出来ないぐらいなら家族の元から離れるかな?」
「ん? でも足が動かなければ離れることもできないぞ?」
ウルはラルが言っていることに疑問を感じていた。
「確かにそうだよね」
「いや……まだあったわ」
エイマーは俺が言いたいことに気づいたのだろう。
「わかったと思うけどたぶんこの世界では死を選ぶ人が多いと思う」
魔物もいるこの世界では死はそんなに遠い存在ではないはずだ。
仕事も出来ず家族に迷惑をかけるのであれぼ自ら死を選ぶ人が多いとメリルは言っていた。
そんな中コルトンみたいに常に治療が出来る人か貴族みたいにお金で解決できる人以外は第一にその選択を取ることになるだろう。
「だからこそ俺は介護が必要だと思うんだ。人それぞれ考えは違うと思うけど命を無駄にするのは嫌だからさ」
前世では病気で今後の将来が不安になっている人達と関わってきた。
亡くなる人もいれば、寝たきりになる人、介助が必要な人など様々な人がいた。
それでも他人事に思っていたことが実際に自分が死を経験したからこそ最後までしっかり生きたいと思うようになった。
ケトの分まで生きないといけないからな……。
「ケントくん……」
そんな俺をみてエイマーが抱きついてきた。そんなに複雑そうな顔をしていたのだろうか。
それにしても頭にある心地よい感触に俺の鼻の下は伸びっぱなしになるのだった。
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