第61話 出張体操教室
今日はアスクレ治療院に来ている。冒険者ギルドには俺しか受けられない依頼が募集されていた。
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【F.体操教室の講師を募集】
募集人数:1人
報酬:銀貨5枚
内容:治療院での体操教室の講師を募集しています。
時間:昼過ぎ
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どこから見ても俺しか出来ない仕様になっていた。しかも、体操教室と書いてあっても冒険者の中で"体操"という言葉を理解しているのか人がいるのかどうかさえ分からない。
「こんにちは」
治療院の扉を開けるとすでにたくさんの人が待っていた。
「おっ、やっと来たか!」
「あんた先生に対して失礼だわよ!」
「おお、すまんすまん」
今日も花屋の夫婦は参加していた。そして夫の隣には治療中のキーランドが座っている。
「キーランドさん?」
「来てやったぞ」
「おいおい、先生に失礼だぞ」
花屋の店主はさっきの態度を忘れたのかキーランドに説教している。
知ってる人から見たらじゃれあっているような感じだった。
「俺とキーランドは昔パーティーを組んでいたんだ」
花屋の店主は以前冒険者をやっていたと聞いている。現役で冒険者をやっている時はキーランドと他のメンバーでパーティーを組んでいた。
キーランド以外は既に冒険者を引退しておりそれぞれ違う職業をしている。
辺りを見渡すと他にも男性が三人参加していた。きっとキーランド達とパーティーを組んでいた人達だろう。
「今日は脚全体を使う体操を行います」
今日の内容は筋力訓練とストレッチを取り入れながら考えた。
主な筋肉は#下腿三頭筋__かたいさんとうきん__#、ハムストリングス、#大腿四頭筋__だいたいしとうきん__#を中心にした。
大腿四頭筋は脚の中で一番大きな筋肉で支持性を高めるのに必要だ。
しかし脚の前面筋である大腿四頭筋は過負荷によって使い過ぎている可能性が高い。
「まずは膝が悪くないか確認します。二人一組になってもらって各々脚を閉じてください」
言われた通り脚を閉じると隙間が開く人やしっかり脚同士が閉じる人など様々だ。
「ここで検査してるのはリング脚かどうかを簡単に見るためです。指が約二横指分隙間があればリング脚だと言われています」
O脚と言われてもきっとわからないため、リング脚と言うことにした。
「私リング脚だわ……」
「私もリング脚--」
「いやいや肉で隙間ないだろ」
「あんた相変わらずうるさいわね」
今日も花屋夫婦は仲良く夫婦漫才をやっている。
「リング脚が酷くなると膝の軟骨が擦り切れて膝の変形による痛みが出てきます。今日はそれをなるべく改善できる体操を用意しました」
以前アスクレ治療院にも来ていた人の中で"変形性膝関節症"に当てはまること人が多かった。
そのため今回のメニューを考えて持ってきた。
「変形性膝関節症の人は基本的に姿勢の歪みから来ることが多いです」
俺は骨盤を後ろに傾け膝を少し前に出した姿勢をした。
「骨盤が後ろに傾くと自然と膝前に出てきます」
「あっ……」
体操に参加している人から声が聞こえた。
「気づいた人がいるかもしれません。今骨盤を後ろに傾けた時に膝が前に出てきます。そして膝も自然と少し外に出てきます」
「私も出ました」
さっき確認した時は脚の間に隙間がなかった人も少し骨盤を後ろに傾けるとO脚になる。
「このように骨盤一つで姿勢は変わります。 動く範囲が広いこと、筋力があることが需要となってきます」
変形性膝関節症の人は膝が内反しO脚になってしまう。
さまざまな原因はあるが、それ以上外に向いていかないように脚の内側の筋肉が頑張ってしまう。
それとともに脚の前側である大腿四頭筋は過負荷となってしまう。
「今日はこれで終わりにします。お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
一通り説明をしながら体操をはじめていくとやはり反応は良くしっかりと聞いていた。
前世ではありふれた情報でも異世界では真新しいことだから興味が湧くのだろうか。
「自宅でも一人で出来ると思うのでやっておいてくださいね」
仕事を終えたらアスクレがいる診察室に向かった。
「おい、キーランドどうだ?」
「ケントはいつもあんな感じで教えてるのか?」
「先生はこの前と変わらないぞ? しっかり教えてくれるからな。俺らが冒険者の時にいれば今も現役だったのかな……だからキーランド頑張れよ」
「ああ」
「今度飯でも行こうな」
「俺も頑張るか……」
誰も居なくなった治療院にキーランドの声が静かに響いていた。
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