第59話 ようこそ、冒険者治療室へ!
ギルドの治療院は保健室に因んで治療室と呼ぶことになった。一応ギルドの応急処置をするところという扱いのため、回復ポーションやマナポーションも置いている。
ついに冒険者ギルド治療室が完成した。って言っても一日で出来たんですが……。
治療室の手順はこのようになっている。
――――――――――――――――――――
1.現在の気になっているところを記載用紙に書き依頼として受付処理される。
2.待ち合い椅子で待つ。
→その間に足湯で温める。
3.依頼料に合わせてマッサージ。
――――――――――――――――――――
冒険者ギルドに着くころにはそこには列が……出来ていなかった。
今までマッサージを行なったのはギルド職員中心だ。やっても体操教室だけだから街の人の体を直接触れたこともない。
そのため、ギルド職員が休憩もしくは仕事が終わった時に人が来る程度だ。
「暇だな……」
朝から冒険者ギルドにいたため、昼までの時間を使って訓練場に行くことにした。
訓練場にはマルクスがハンマーを振っていた。
「あれ? マルクスさん今日は依頼じゃないんですか?」
「ああ、今日は休みにした」
「なら、久しぶりに追いかけっこしませんか?」
「ほほ、今日は俺から言ったわけではないからな?」
マルクスの目は獲物をみつけたように光っている。
「じゃあ、数えているうちに逃げろよ」
「いや、ちょっと待ってくださいよ」
逃げる体制に入る前にすでにマルクスはハンマーを振っていた。
エッセン町のギルドよりトライン街の訓練場は広い。そのため配慮しなくても十分にハンマーが振り回せる環境だ。
俺は必死に訓練場を逃げ回った。
「マルクスさん腰は大丈夫ですか?」
「おお! もう、完全復活だ。それよりも余裕そうだな」
息は上がっているが、腰の状態を確認すると変に勘違いされた。
「いやいや」
「おー、ケント走れー!」
気づいた時には三十分もかけっこは続いていた。
「はぁ……はぁ……疲れた」
俺はその場で倒れ込んだ。
「昔と比べるとだいぶ体力がついてきたな」
「おかげさまです」
前より体も大きくなり年相応に成長してきている。
「それにしてもマルクスさんって息切れもしてないんですね」
「当たり前だ! ちゃんと治ったんだからな」
あれだけ走っても息切れもせずに、30分間ハンマーを振り回していた。体の動きもだいぶ現役時代に戻ってきたのだろう。
エッセン町の訓練場では当たり前になっていた光景だが、久しぶりにトライン街で行うと他の冒険者達からの視線が集まっていた。
「じゃあ、治療室に戻るのでよかったら来てくださいね」
「おう、また行くからな」
♢
治療室の前にはギルド職員が立っていた。
「あっ、ケントくん待ってましたよ」
「ちょっとマルクスさんと訓練していたので閉めてました」
「別にいいわよ。そういえばマルクスさん完全に治ったようね。ギルド内でも鉄槌のマルクスが復帰したって噂になっているわよ」
トライン街に戻ってきた時は陰口や冷たく対応する冒険者もいた。
しかし、元々活躍していた冒険者が復帰すると分かり今じゃ馴れ馴れしく接する冒険者も増えてきている。
「紙に症状を書いて椅子に座ってくださいね」
ギルド職員は紙に"肩周りと足が疲れている"と記載し椅子に座っていた。
この人も前にマッサージを受けた日に受けて虜になった一人だった。
――トントン!
「どうぞ」
扉を開けてきたのは知らない男性冒険者だった。
「あっ、キーランドさん!」
ギルド職員はどうやら男性冒険者を知っているようだ。男は俺の姿を見ると目を細めた。
「ここに来ると良くなるって聞いたから来たが……マルクスといる子どもか」
まだ成人前の俺に対して当たりが冷たいのは仕方ないのだろう。
「キーランドさんですか? 依頼料かかってしまうので、それでも良ければそこの紙に記載してください」
冷たい対応であったがキーランドは紙に記載した。
ギルド職員のマッサージが終わるまでは、キーランドに足湯に足を浸かって待ってもらうことにした。
心の中ではイラついていたが誰でも治療を受ける権利はあるからな。
「ケントくん気にしなくて大丈夫ですよ。キーランドさんはあんな感じですけど、かなりの子ども好きですし、優しい方ですからね」
ギルド職員はボソボソと話していたが、キーランドに聞こえていたのか睨まれている。
あの男のどこに子ども好きの要素があるのかわからなかった。
マッサージを終えキーランドに状態を聞きにいくと"大剣が振りにくい"と言っていた。
「キーランドさん今日って大剣お持ちですか?」
「ああ、俺の武器だからな」
「なら訓練場に来てもらってもいいですか?」
「ああ? お前がこの俺に挑もうってか」
キーランドは急に威圧を放った。
「別に戦わないですよ? 少し振りにくいっていうのがどんな感じなのか見せてもらいたいだけですよ」
エッセン町のギルドマスターやマルクスに散々威圧されていたため、特に威圧に関してはどうも思わなかった。
いつも何か俺も冒険者社会に慣れたのだろう。
「ああ、すまんな」
「別に気にしてないですよ? 行きましょうか」
俺はキーランドとともに訓練場に向かった。
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