悪魔さんはかく語りき
亜未田久志
①
僕はとり憑かれている。名前は悪魔さん。安直だが、本人がそう呼んで欲しいと言うだから仕方ない。ところで唐突で悪いのだが、あんまり学校に遅刻したくないので悪魔さんと人気のないところで「お話」を始める。それは契約の一種であり、それを果たさないと授業中に邪魔をしてくるのだ。厄介極まりない。なぜ悪魔などにとり憑かれてしまったのだろう。……それはまあ、俺が祖父ちゃん家の蔵を勝手に漁ったからなんだけど。
閑話休題。
さっさと「お話」を済ませてしまおう。
「ここならいいですよ、悪魔さん」
「ようやくかい僕くん、わたしは待ちくたびれたよ」
「そりゃごめんなさい。それで今日はどんなお話を?」
「ふむ、じゃあメソポタミア文明についてとかどうだい?」
「ついていけませんよ」
「浅学だねぇ、じゃあ君の身近な話題にしようじゃないか」
すこで一息つくと悪魔さんはこう語り始めた。
「君のクラスが形成しているスクールカーストについてだ。スクールカーストというのは実に興味深い、単なる三角形ではない分布図を示している」
「はぁ」
「上位カーストの運動部員、委員長、中位カーストの勉強に励む者達、塾通いと呼んだ方がいいかな? そして下位カーストのオタクグループやぼっち」
そこで僕を指さす悪魔さん。
「誰がぼっちですか」
「ごめんごめん、でもね、わたしは今こうしてカースト分けしたけれど、上位カーストにだってアニメ好きはいるし、オタクグループにだって運動部員はいるんだ。でも不思議とカーストというグループに分けられているのだ。面白いと思わないかい?」
「……」
なんとも言えなかった。確かに悪魔さんの言っている事は正しい。だけど、それが、つまり、となると答えに困る。
「君は今、答えに窮しているね? うんうん悩める青少年は悪魔さんの大好物さ」
「満足ですか?」
「いいやまだだね、君には『お話』を要求しているんだ。これでは一方的な説法だよ」
「僕はスクールカーストなんてどうとも思ってませんよ」
「つれないねえ。そこがまた面白いんだが」
不敵に笑う悪魔さん。
「じゃあこうしよう、わたしと『お話』する契約を履行すれば君はスクールカーストの上位になれる。悪い話じゃないだろう?」
「だから興味ありませんってば」
「そう言うな、まずはそうだな、わたしの言う通りに委員長を口説き落せ」
「く、くどっ!?」
「ふふふ、照れて可愛いねぇ。君は本当に愛いヤツだよ」
それはおもちゃを見つけた猫の目だった。
「そうと決まれば早速、学校に行こう! なぁに、君はただわたしの言う通りに喋るだけでいい!」
「あ、あの! 僕やるなんて一言も――」
「おや、いいのかい? 君の命はわたしが握っているんだよ?」
脈打つ心臓、そう、僕の心臓は悪魔さんに奪われていた。
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