第5話 どうせヤるなら私とだよね
「……これって俺?」
「うん、そうだよ」
その少女が自分であることを信じられなかった俺は、スマホを取り出しインカメラをつける。そこにはさっき写真で見た女子高生がいた。
「……かわいい」
思わず漏れた独り言。まさか自分がここまでかわいいとは。メイクの力が大きいことは分かっているが、それにしてもかわいい。モデルとかできるんじゃないかと思えるくらいに。
吸い込まれそうな大きな瞳。すっきりした小鼻、ふっくらとした唇。ふわふわの茶髪に制服の組み合わせが男心をくすぐる。ちょっとチャラい女子高生。それが今の俺だった。
「でしょ。私の目に狂いはなかった」
姉が誇らしげにしているのには少し腹が立つが、自分の顔を見れば今だけなんか許せる気がした。
「よし、一緒に写真とろう」
そう言って姉が俺に肩を寄せる。実際に血は繋がってるので当たり前かもしれないが、姉とのツーショット写真はまるで姉妹のようだった。気づけば時刻も深夜2時をまわっていて、俺も何だか楽しくなってきた。
そのあと、姉の要求するままにポーズをとったり、ネットでよさそうなポーズを調べてとってみたり、いろいろやってるうちに気づけば一時間ほどたっていた。
「あー、楽しかった。ありがとう。満足したよ。撮った写真、全部エアドロップで送るね」
姉は満足したようで、俺にすべての写真を送ってきた。全部で150枚の写真が送られてきた。俺はこれほどの写真を撮っていたことに驚きを隠せなかった。いくつかの写真はフィルターや加工の違いによって実質同じ写真といえるものもあったが、それでも全部で100枚ほどはあるだろう。
ぱっとみた限りではあるが、どれもかわいくて良く撮れている写真だと思った。
「洗顔剤でメイクは落ちると思うから、洗面所で洗ってきてね。ていうか明日、学校じゃん!やばいね。まあ明日だけは私が起こしてあげるから、気にしないでいいよ」
「じゃあ、6時くらいに起こしてほしい」
俺はそれだけ伝えて部屋を出た。テンションが戻ると、眠気は急に襲ってくるもので、俺は眠い目をこすりながら女子高の制服を着たまま洗面所でメイクを落とし、パジャマに着替えてベットの上に乗った瞬間、プッツリと糸が切れたように眠った。
♢
姉の制服やらメイク道具やらは俺が眠っている間に回収してくれたのだろうか、朝に起きるときれいさっぱり無くなっていた。スマホのアルバムに保存された美少女女子高生だけが昨日(厳密にいえば今日)の出来事が現実に起こったことである証明になっていた。
「起きろー、ってもう起きてたのか」
俺がスマホを見ていると、あさひが扉から顔だけをひょっこり出して俺に呼びかけた。彼女は朝が弱いので多分あの後ずっと起きてくれていたんだと思う。
「オッケー、大丈夫そうなら私は部屋で寝るね。ご飯も作っておいたからよかったら食べて」
朝食を作るのも、俺が負担している家事の一つであった。さすがにお弁当を作ったりはしないが、軽い朝食の用意をできる日にはしていた。
夕は平気なようであったが、俺は毎日総菜パンばかりを食べていると飽きるのだ。手料理が食べたくて、テスト前以外は極力自分で作るようになっていった。
その話はあさひにしていたので彼女は俺が毎朝少し早く起きて料理をしていることを知っていたのだろう。テーブルの上には俺の分のご飯とみそ汁と卵焼きのセットがおかれていた。夕の卵焼きはラップされた状態だった。みそ汁とご飯はそれぞれ鍋と炊飯器の中だろう。
朝食を作る時間を考えて6時に起きていたので、食事を終えた後に少し暇な時間ができてしまった。
俺は空いた時間で自分の写真を見返した。昨日のかわいいという感覚は深夜テンションによるものではなく、しっかりと今見ても可愛かった。
そんな小休憩を挟んでいると、夕が起きてくる時間になったので、彼女の食事の用意を済ませた。その瞬間に、昨日あさひに馬乗りになった件の弁明をする必要があることを思い出した。
「ヤバ、どうしよ」
そんなことを思い出したタイミングで夕が部屋に入ってきた。
「おはよ、昨日どうだった。楽しめたの?」
完全に何か別のことをシたと思われているだろう。彼女の目は笑っていなかった。
「昨日のは誤解なんだ」
「いや、いいよ。母さんと父さんには話さないし」
「違うんだ。俺は姉さんに女装させられてただけで断じてセッ——」
「うん、だから知ってるって」
「……え?」
「だって姉さんの制服とメイクが目についたから、多分そうなんだろうなーって」
全身の力が抜けて、俺は文字通り膝から崩れ落ちた。よかった。姉とセックスしたと思われてたわけではなかったんだ。
「だとしたらなんで怒ってたの?」
「昨日大学の書類関係でわからないことがあって調べてたから。結構長いことやってたから寝不足なの」
なるほど。俺は彼女の説明である程度納得がいった。
「ってことは俺が女装させられてたの知ってたの!?」
「うん。姉さん、ずっとさせてみたいなーって言ってたし。ついにやりやがったなって思った」
そうだったのか。てっきり姉の突発的な思いつきだと思っていたので、前からさせてみたかったことが本当だったことに驚いた。
「それに、ヒナタは姉さんにそういうことしないと思ってるし」
「それは、そうだけど」
「どうせヤるなら姉さんよりも私とだよね」
「…………」
夕は時折シャレににならない爆弾を放り投げてくることがある。彼女はあさひと違って陰キャなので距離感がたまにとんでもないバグり方をするのだ。
「……さっきのは冗談」
自分の爆弾発言具合に気づいたのか、彼女は顔を赤らめて、そそくさと部屋を出ていった。
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