悪役令嬢(仮)
ミルティア
ある悪役令嬢のお話
その音は突然だった。
子供の頃、ただベットの上で天井をぼんやり見つめていた時に聞こえたのは。
慌てて部屋の中を見渡すと、床の上に一冊の本が落ちていた。
すぐに人を呼ぼうかと思ったけど、なぜかその時は自分で拾いに行くのが正しく思えた。
まだ、自分の身長より不釣り合いなほど大きなベットから降りて、そっと落ちてる本に近づくと、その本が見たこともないほどの色とりどりの絵で描かれていることが分かった。
私は、すぐその本を拾い上げると、そっと読み始めた。
その本に書かれていた文字は残念ながら読めなかったけど、多くの絵で描かれていて、まだ見たこともない美しい絵に驚いた。
何が書かれているのか、私はその本のことを強く知りたいと思った。
本を一ページ一ページ読み進ていくと、この本に描かれている事がなんとなく見えてきた。
一ページ目。
一枚の絵で、何人もの人物とどこかの建物が描かれていた。
服装は、簡素ながら上質な布地で作られている事と建物はかなり大きな建物であると描かれている。
男性と思わしき人物が四人。
四人とも美しい姿に同じ服を着ている。
男性は、残念ながら髪の色以外は同じように見える。
女性と思わしき人物は二人。
二人の女性は、服は同じだけど髪の長さ髪の色、立ち振る舞いが正反対のように描かれているように感じた。
二ページ目から五ページ目まで。
男性達が、壇上から険しい表情で髪が長い女性に話しかけ、髪が長い女性が反論している。
五ページ目から10ページ目まで。
ここで女性の服装が、みすぼらしい服に代わり、どこかに閉じ込められている。
文字は読めないが。、この髪の長い女性が多くのものを失ったと感じた。
11ページから12ページ目まで。
私は、初めてここを読んだ時は、恐怖のあまり本を落としてしまった。
女性が、おそらく公開で処刑されている。
とても怖くて、今でもここを冷静に読むことができない。
12ページ目以降。
ここからは、髪が短い女性と男性達の会話が数ページ続き、残りは白紙のページが続く。
私は、この本を手にしてからは、時間がある時は皆に隠れて繰り返し読みこんだ。
この本は何を描いているのだろうか。
私は、五ページ目から十ページ目に答えを見つけた。
小さく描かれているが、この髪の長い女性のために涙を流している人々が描かれていた。
この本は告発本だ。
きっと、この髪が長い女性に起きた不正義を、多くの人達に伝えるために書かれた告発本だ。
この絵が多用された書き方も、文字が読めない人達に何が書かれているかを伝えるために編み出されたのだろう。
文字がどこの国のものかわかれば、この長い髪の女性の名前がわかると思うのに。
このもどかしい気持ちを解決する方法は、今の私でも見つけられなかった。
「女王陛下。そろそろ時間です」
「ありがとうございます。今年の議会はどうかしら?」
「いつもと変わりありません」
大人となって、大きくも無いが小さくも無い歴史ある国家の女王になっても、私はあの告発本で描かれた髪が長い女性の事を忘れられなかった。
世界の誰もが彼女の事を忘れたとしても、私は忘れない。
私は、彼女に何もできないけど、もし彼女の事が何かわかって、もし彼女の墓参りが許された時には、私は彼女に恥じない生き方をできているのだろうか。
私にはわからない。
でも、彼女に起きたような不正義がまかり通らないように。
私の国の臣民には、不正義で涙を流すことが無いように。
私の命が輝いている間は、私のすべてをささげよう。
これは、名君と称えられた昔の女王の私的な日記からの抜粋である。
悪役令嬢(仮) ミルティア @sapphire5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます