公爵令嬢は人の心は読めますが、まったく空気は読みません

漉凛

第0章

第1話 よくある公爵令嬢に転生したみたいです

————転生したい、それが前世の私の思いだった。















人の魂は巡り巡ってさまざまな場所を行き交い、時に記憶を無くし、時に記憶を持ったまま生まれ変わってきた。








これはそんな何年、何百、何千年もの時を超えた物語————











時は遡り彼女が生まれた時の話になる。



————聖暦4506年、月の月


 

ティアドラ王国では冬が終わり、春が訪れていた。

1000種類を超える花々が庭先で咲き誇り、まるでそこでは全ての生物がこの庭に祝福を与えたのではないかと言うぐらいの魔素で空気が満ちていた。


そんな、自然から祝福された場所で生まれたのがセレナリールだった。

セレナリールはティアドラ王国の公爵令嬢としてこの世に生を受けた女児だった。


側から見れば、公爵令嬢そのものだが、中身が変わっていた。


これはそんな変わった少女が歩んだ一つの物語である。












目を覚ますと見慣れない天井が見えた。


(ほお、これはもしや、異世界転生をしたのでは?)


起きた瞬間になんとなくそう思った。

とりあえず周りに人がいないかを確認して、自分の手のサイズを見る。


すると私の手は肉厚な赤ちゃんの手そのものだった。

あまり体が動かないので心の中でガッツポーズをする。


「あぅ…あ。あー、あ、ああ!」

訳:よし…決めた。私はこれから異世界ライフを満喫して、自由に生きよう!


声を出すと、誰かが部屋に入ってくるのを感じたので大人しく寝ているふりをすることにした。


薄目を開けながら様子見をしていると、

「セレナリール様?今、声が聞こえた気がしたのですが…」

と言いながら不思議そうに首を傾げるメイドらしき人がいた。


寝ているふりをしている私に気付かなかったようで、メイドは「勘違いだったのかしら?」と言いながら部屋を出て行った。

人がいなくなったのでもう一度目を開けるとさっきと同じように天井が見えた。


話している言葉は知らない言葉のようだったが理解することができたので、日本語じゃないのに聞き取れるらしい。

とりあえず寝たふりがバレなかったようで安心した。


(とりあえず寝よう。)


寝る子はよく育つと前世で誰かが言っていたので寝ることにした。

寝たら早く大きくなって歩けるようにもなるだろうし、そうすれば行動範囲が広がることだろう。

やはり赤ちゃんだからか、意外とすぐに眠りに落ちることができた。





————数ヶ月後。


しばらくは寝て、起きては食べての生活を繰り返していたが割と早い段階で立てるようになり、今では歩けるようになった。

そして食べるものは離乳食へと変わっていた。


「あ!あーあぅ!」

訳:おお!やっぱり味のある食事は美味しいな!

と最初に離乳食を口にしたときは味のある食事に感動したものだ。


ちょっとずつでまだ拙いが言葉も話せるようになった。

(まあ、まだ単語を並べて言えるくらいだが…)

いまだにちゃんとした文章の言葉が話せないのは仕方がないが、なかなか人に伝えたいことが伝わらないのは難点だ。

(この先の人生で赤ちゃん翻訳機でも開発しようか…)

まあ、行動範囲が広がっただけでも良しとしよう、と自分を納得させた。


今日はどこに行こうかと考えているとメイドが

「セレナリール様、今日はどちらに行きますか?」

と言ってきた。


彼女の名前はモカと言い、私の専属メイドであるらしい。

いつも私の動向を見張っているので、監視役とも言えるかもしれない。

まあ、大体の要望は通るので困ったことはない。


「庭、いく」


私がそういうと、彼女は笑って「かしこまりました。では、行きましょうか」と言いながら部屋の扉を開いた。

その扉を出て庭に向かう。ここの庭はかなり広く、私が前世で数回しか見たことがない豪邸のような広さがあるのだ。


庭に出るとお母様がお茶をしているのが見えた。

成長したとはいえ、まだ小さい足なのでトテトテとゆっくり歩いて行くと途中でお母様は私に気付いたようで、私に笑いかける。


風が吹いてプラチナブロンドの髪が靡き、太陽の光でキラキラと反射する。

彼女の綺麗なエメラルド色の目は、わたしに向けて優しげに細められている。

私のお母様はいわゆる異世界ものの話に出てくる二次元の美人で、三次元にそのまま出てきているのでは無いかと思うほど顔が整っている。


「セレナちゃん、どうしたの?お散歩かしら?」

お母様は立ち上がって私の元に来てしゃがみ込んだ。

私は頷いて返事をする。


「そうなのね。セレナちゃん、私と一緒にお茶でもしない?」


もう一度頷くとお母様は私を自ら抱き上げて自分の膝の上に乗せた。

もう慣れたようだが最初のうちは、周りの侍女があたふたしていたのでなかなか貴族では見ない光景なのだろう。


「おかし!」

訳:この世界にはお菓子が存在していたのか!感動だね!


異世界物の話の中にはお菓子などの食べ物があまり発達していなかったりして主人公が食文化を開拓していく、なんて話もあったがそうではないようだ。

普段もしっかりとした料理が出てきていたのでお菓子もあって欲しいと思っていたのだ。


「そういえば、セレナちゃんはお菓子は初めてよね?どこでその言葉を覚えたのかしら?」

つい出てしまった用語は危なかったらしい、とりあえず首を傾げて不思議そうな顔をしておくことにした。

まだ私が転生者だとバレるわけにはいかない、そもそものところあまり喋ることができないので説明するのが面倒と言うのもある。

あと、この世界の転生者の立ち位置がまだよくわかっていないので不用意に『転生者』というワードを出すのは良くないようにも思えるので家族にこの話をするのは先になりそうだ。


「きっと絵本とかに出てきたのね。セレナちゃんも食べる?」


そう言ってお母様は私にお菓子が入った皿を差し出してきた。

すると、後ろで控えていたモカが口を開いた。

「奥様、セレナリール様はまだお生まれになられてから1年も経っておりませんので、まだ早いかと。」


お母様は少し考えた後に、

「そうね、確かにセレナちゃんは1歳になっていないものね。他の子より立つのが早かったから忘れていたわ。」


この日はお母様の膝の上で一時間ほど過ごして、お昼寝する時間になったので自分の部屋に強制的に戻された。

強制的に戻されてまだ眠気もなかったため、とりあえず寝たふりをして使用人を部屋から下がらせた。


天井を見るとベッドの天蓋が見える。

これからの異世界生活をどのように過ごすかさまざまなシュチュエーションを予想して、考えていると眠気に襲われた。


だんだんと瞼が下がってくるのを感じ、私は重力に逆らわずに目を閉じると、次の瞬間にはぐっすりと眠っていた。

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