第6話【最強】の騎士誕生
「これはいったい・・・」
俺たちがその光景に唖然としていると隅から軽装をした伝令と思われる兵士が現れる。
「レイン様エレナ様より伝言です、デンブリー卿はかなり前からほかの国に姫を売るため、姫を探していたようだ、今日城周辺にいたのもそのため、デンブリー卿は我々のあとをつけ、姫の居場所を知った可能性がある、デンブリー卿は適当な罪をでっち上げ私を取り押さえるつもりだ、私が城で何人か引き付ける、姫をそのすきにお救いしろ、とのことです」
どうやら黒の国は国内すら碌にまとまってないようだ。
「騎士様・・・!助けに!」
「・・・嫌だね、さっき館に向かっていたのはざっと50人以上だ、お前も無理なことは早めにあきらめろよ、姫だって別に殺されるわけじゃないんだろ、いっそあのままずっと館にいるくらいならさらわれた方がいいのかもしれない」
「・・・」
「ま、エレナによろしく伝えておいてくれ」
最悪の状況だ、レインの顔は混乱を極めている、無理はない、いきなりの窮地だ。
だが俺は前回散々助けたはずだ、ただで命を落とすリスクを冒すボランティア屋はもう店じまいだ。
俺が城を跡にしようとするとアヤナの顔が浮かぶ。
もう俺はあいつにあえないのか・・・もう少し話したかったな・・・今からいって守るか?いやいい・・・あいつも死にたがってるんだ、俺には救えない・・・もういいんだ・・・
俺がアヤナのことを考え葛藤して振り払おうとしているとその時レインが俺を止める。
「エレナ姉様は言いませんでしたかが姉様が貴方を欲しがるのは戦力増強という一面もあるのでしょうが、一番は明るい騎士様に変えて欲しかったのです、貴方とは正反対の性格の姫を」
「俺に救えるとは思えない、あいつを助けられるやつなんてこの世にいないのさ」
「では最後に騎士様、姫にはみせるなと言われていたのですが・・・」
「なんだ?」
引き止められレインから渡されたのは一通の手紙だった。
封筒の中にあるのは高級そうな手触りのいい茶色の紙、ところどころ滲んだインクの文字が書いてある。
「それはアヤナ様のお母様が死ぬ前にアヤナ様に送った手紙です」
「気狂い姫って呼ばれてたって言う人か」
「読んでみてください」
気狂い姫と呼ばれた人間の言葉だ、きっと恐ろしい文言が載っているに違いない。
俺は恐る恐る文面に目を通し始める。
しかしその文面は俺の悪印象を大きく裏切るものだった。
拝啓、エレナへ
まずはあなたをひとりぼっちにしてしまうことを謝らせてほしい。私たちは王になり奴隷制度を撤廃し私は平等で平和な世界を作ろうとした、でも赤の国に夫の謀略を暴かれ、それを誇張しうまく民衆に印象操作を仕組まれ、囚われてしまった。これから私は殺され、直に夫も殺されるかもしれない。
本当にごめんなさい、全ては私が夫の忠告も聞かずに敵を信じてしまったからだ、ここに夫の落ち度はない、私が甘すぎたせいでみんなを不幸にしてしまった。私は許さなくていい、でも夫は許してあげてほしい、あの人は私とお腹の中の貴方のことをずっと案じていた。
ずっと私の事をを恨み続けていて構わない、貴方はこれから幾度も辛い思いをすると思う、全部それは私のせいだ、でも願わくば貴方には生きていてほしい、生きて幸せになって欲しい、これはわがままで馬鹿な母の最後の願い、きっといずれ誰かが貴方を助けてくれるそう信じて生きて欲しい、その時まで・・・どうか、どうか生きることを諦めないで。
わがままで馬鹿な母より
度々、滲んだインクからこれを描いた人の人間性、その時の感情がストレートに浮かんでくる、かなり辛かったんだろう、それでもって謝罪に次ぐ謝罪、自分が処刑される前だってのに書くことは夫と娘のことだけ、二人を相当大事に思っているのがわかる。
ところどころのインクの滲み、おそらくこの滲みは涙がまじったときのものだ、泣きながら書いたのか、アヤナの母さんどんな化け物かと思ったらめちゃくちゃいい母さんじゃねぇか・・・俺の母さんも俗にいういい人だったな・・・俺の誕生日のためにパートのシフトを増やして高いおもちゃ買ってくれたり、勉強は馬鹿な俺に寝る暇も惜しんでいつも工夫して楽しく教えてくれた。
でもだからなんなんだ、俺たちは所詮他人だ、関係ない。
苦手なんだよな、こういう悲劇は、俺からしたら馬鹿が1人死んだだけ。
それだけ、それだけなのはずなのになんでこの文章を読めば読むほど視界がぼやけるんだ・・・?
鳥肌が立って胸の中の奥底が熱くなるのを感じるのは何故だ・・・?
クソ、目から溢れ出したものが止まらねえ・・・
あいつと話したのは一度だけだ、ただそれでも昔の自分を見ているようなこの感覚・・・あいつはまだ、ただのガキだ、それを複数の人間が寄ってたかっていじめて・・・俺は別に正義のヒーローじゃない、ただの【最強】の男、どんなことをしてでも勝つ、そういう男だ。そうだ、俺が目指していたのは有利な陣営に入って勝利を得るようなつまらない男か?ひどい目にあっている子供も救えねぇだせえやつか?俺の考える【最強】はそんなことはしない、さっきデンブリーを殴ったのもそういう人間が嫌いだからだろう?なんのために【最強】になった?こういう時のためだろ!
俺は【最強】だ、ムカつくやつはとことんぶん殴って、救いたいものは全部救ってみせる!
「泣いているんですか?」
「泣いてねぇよ・・・クソッ・・・」
「意外と情に熱いんですね」
「うるせぇ・・・」
今日はやけに涙腺が緩い、まさか手紙一枚に泣かされるとは思っていなかった。自分を合理的と自称してる癖にこれじゃあ全く持って合理的じゃない、だがこれで俺の心は・・・決まった。
◇◇◇◇◇
「さぁ!出て来い!ここに姫がおるのだろう!」
大きな怒号が館のドアの前で鳴り響く。
窓から何十人もの兵士が館を取り囲んでいるのがわかる、もう脱出するのは不可能だろう。
「姫様・・・我々が命を懸けて突破口を開きます、お逃げください」
この館の三人のメイド私が来た三年前からずっと私を助けてくれた、サナ、セナ、アナの三姉妹。
その三人が今私のために死のうとしている。
もう私のために人が死ぬのはうんざりだ。
「大丈夫、私が投降すればあなたたちは助けると先ほど大声で言ってました」
「しかしそれでは姫が!」
「私は捕まることよりあなたたちが死ぬことの方が悲しいんです、自己犠牲はやめてください」
「姫だって・・・!」
「ごめんなさい・・・でもきっとまた会えるはずです」
私は扉を開け、デンブリー卿の前に立つ。
「まだ子供なのに恐ろしいほどの美人じゃのう、あとでたっぷりあそんでやろう」
「投降します、だからこれ以上のことは・・・」
「何を・・・?そんなわけなかろう・・・?」
デンブリー卿はその大きな体躯を揺らしながら口角を上げる。
「根切だ!メイドは殺せぇ!犯してからでも構わんぞ、兵士達よ!」
「そんな・・・約束が違います!」
「助けると言うのは殺して楽にすると言うことだ、命を取らぬなど言っておらぬわ!そうじゃ!あの男はどこじゃ!転生させた騎士は!」
ダメだ・・・話が通じない、いや元からする気なんてなかったんだ、ああ、また私のせいで大切な人が死ぬ。
三姉妹のメイドは武器を構えるがどうせ無理だ、相手は増援も増え100人ほどだろうか、この人数の兵士に勝てるわけない。
私の心はすでにどん底にあると思っていたがまだ底があったようだ、もう涙も枯れて出てこない、母の手紙に書いてあるような人はこないし幸せはつかめない、もういっそ早く殺して・・・もうなにも見たくない・・・ここで死のう、もう終わらせるんだこんな苦痛な人生を。
私が諦めようとした時、そこにいる全員が意表を突かれる形で彼は現れた。
ブオッッ————————————
「よんだかぁ⁈」
「!?」
大きな突風、閃光のような速さの風は兵士を飛び越え、私を幼児をあやすような形で抱える、俗にいうお姫様抱っこだ。
満面の笑みの彼は泣いた跡のある、腫れた目でキザなウインクを私に向ける。
「今から俺がお前の騎士だ、【最強】のなぁ!」
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