第2話【最強】の初陣
サナスはいやらしい笑顔を浮かべ鍔迫り合いでエレナを押し込む。
「相変わらず用心深いのぉ、10年間ぶりに帰ってきた師に対して、姫に近づかせるどころか、場所すら教えることもしなかったとはのぉ、そしてよく儂が裏切ったことにきづいたのぉ」
「突然帰ってきたと思ったら姫の位置を執拗に尋ねてくる…、馬鹿でも察しがつきます、どこで道を踏み外したのですか・・・」
「姫の場所を教えればおぬしは殺さぬ。じゃが姫は殺せとの命令じゃ」
「・・・それはたとえ師だとしても教えれません」
目の前で起きていることにレインやヴェインは理解が追い付かずに唖然と立ち尽くす。
どうやらサナスのジジイとエレナは師弟関係にあるようだ。
「なぜ、裏切ったのですか!」
「民のためだ、お前は今も仕王選のせいで苦しむ民を知らぬだろう、民は重税をかけられ、いつ戦闘や戦争に巻き込まれ命を落とすかわからない恐怖に駆られている、その民を救うには姫を討ち、このラナス王国を仕王選から離脱しなければならない」
「半年待てばいいでしょう!それに姫の命は無視するのですか!」
「半年など待っておれんわ、もうすでに仕王選の悪影響を受けてるものは多くいる、確かに姫には気の毒じゃしかし儂はたった一人の命より、わしは数千万の意志を尊重する、お前ら刀をぬけい!」
「「「「「はっ!」」」」」
サナスが叫ぶと俺たちの後ろにいる兵士達は武器を構える。
「なっ・・・!」
「やつらはわしの弟子じゃ、すり替えさせておいた、全員おぬしほどではないがしっかり鍛え上げておる」
「姉弟子様、胸を借りさせていただきます」
先ほどまでガヤでしかなかった兵士達の顔つきは一瞬で戦士の顔へと変貌する。
「まずはお主らはそこの無能の方の転移者とレインをやれ、わしがエレナとヴェインをやってやろう」
「無理ですよ、私とレインのタッグの強さを忘れたわけではないでしょう」
「お主ら兄弟の連携が強力なことなど存分にわかっておるわ、【我、求めるは何物にも穿てぬ純鉄の壁、マイステリアズウォール!】」
「クソっ・・・」
サナスが詠唱するとレインと俺と兵士達をエレナ、ヴェイン、サナスから引き離し線引きとなる銀色の壁が出来上がる、相当分厚い壁でもうあちらで起こっていることはわからない。
初めて見る魔法という神秘的な技に息を呑む。
これが魔法か・・・すごいな、一瞬で壁を立てれるのか。
「レイン!武上を頼む!いくぞヴェイン!」
壁上からの声、エレナは声を震わせ、レインとヴェインに強く呼びかける、実の師の裏切りが相当精神に堪えているのだろう。
あれはまずいな、集中力は乱れ、戦闘にも支障が出るはずだ。
しかし俺には関係のないことだ、さぁどうやって逃げるかな・・・
俺が逃げ道を考えていると背後から走り近づいてくる足音がする。
「まずは、一人!」
カキンッ
兵士のうちの一人とレインの刀が交差しぶつかり合う。
「大丈夫ですか!?騎士様!」
「あ、ああ」
「僕も状況は飲み込みませんがあなたを殺させるわけにはいきません、姉様ともう一人の騎士様を信じ我々はこの兵を足止めしましょう」
「我々は5人に対し貴様らは2人、どこまで耐えられるかな?今降伏すればお前ら二人の命は助けよう」
「あいつらのいう通りにしようぜ、レインよぉ、俺はまだ死にたくないぜ」
レインの肩を揺らし、子供のように駄々をこねる。
こんな戦いに巻き込まれるのはまっぴらだ、俺は安全に田舎の静かな場所で第二の人生を可愛い美人な女の子たちとのんびりスローライフを謳歌するんだ。
「騎士様、僕にはあなたがみなに言われているような無能には見えません、あなたのその引き締まった腕や足はどう見ても怠惰に過ごしてきた人間のものではありません、それに騎士様・・・戦っている姉様たちを見る目さっきから新しいおもちゃを見つけた子供のように輝いていました、お願いします・・・力を、力を貸してください」
レインは剣を構えながら周囲を囲む兵士に警戒しながら俺に助けを懇願する。
その言葉からは必死さ、そして心の奥底からの願い、命だってかけられるほどの重さを感じる。
レインは優しい男だ、家族のことも重んじながら他人のことも思いやれる人間。そういういいやつにここまで懇願されては流石の俺も悩むってもんだ。善人を見殺しにするのも目覚めが悪い。それに・・・自称神が言っていたがこの世界で俺の力がどこまで通用するか、実際気にならないわけじゃない。
「仕方ねぇな・・・やるかね・・・」
俺はレインが腰にぶら下げていた二本のうち一本の短剣を抜き取る。
「無能が剣を持っても何もできんぞ」
「無駄な抵抗はやめて死を受け入れろ、痛くはない、一瞬だ」
兵士達はニヤニヤしながら余裕の態度を表に出す。
「それじゃあ、おじさん
◇◇◇◇◇
カキンッカキンッキンッ
繰り広げられる剣技が鉄がぶつかり合う音を奏でる。
重ねあう剣技が増すごとにサナスは私に追い詰められている、受けきれない技の数々が擦り傷を作りサナスは後ろに下がるしかなくなっていく。
ヴェインは横でサナスの隙を突こうとしているが剣技が激しく見切れてないようで立ち尽くしている。
速く終わらせてレインたちを助けに行かなければいけない、数も実力もあの兵士達の方がはるかに上、最悪もう殺されていても不思議ではない、今はレインがうまく耐えてくれていることを願うしかない。
「やはり歳ですね、その老体では元【剣豪】といえど現【剣豪】の私には勝てませんよ」
「ククク、少し押しただけですぐ調子に乗るなと昔教えたはずだが・・・」
「覚えてますよ、つづりは、戦闘中には油断も慢心もせず速攻で敵を殺せ、でしたね」
「そうじゃ・・・できておらぬようじゃが」
「油断しても慢心しても、剣の道をはずれ、落ちたあなたには負けません。【千の標的に力強き風を与えよ、ラウンドストーム!】」
ブオッッ
サナスの一瞬の隙をつき、風魔法を詠唱し吹き飛ばす。
魔法を食らったサナスは倒れないよう足を地につかせ大きく後ずさる。
「さすがに効くのぉ、やはりわしだけでは無理なようじゃ」
サナスは口から出た血を拭き私をにらむ、その男の目からは80代とは思えないほどの闘志をピリピリと感じる。
まだ誰かいるのか・・・?いやそんなはずはない、ここに3人以外の魔力は感じない。
「ブラフはやめてください、今ここには我々3人しっ・・・」
ズシャッ
何度も聞いた剣が肉を突きさす音、ありえないはずの音が私の耳には聞こえていた、自分の現状に気づいたのはその音からだった。
私の体から剣が突き出ているのだ、私の腹から。
「かはっ・・・」
「油断大敵だよ、エレナ」
「ヴェイン・・・!」
後ろを見るとヴェインは今までさわやかな笑顔だった人間とは思えないほどのニヒルな笑顔を浮かべていた。
剣が抜かれると鮮血がその色を輝かせながら流れ出る。
腰の力が抜け膝から崩れ落ちる、自分の血の匂いが鼻をつんざく。
「な・・・なぜ・・・!」
「ヴェインもわしの弟子じゃ、疑い深いお主もそこまではよめなかったようじゃの・・・高い金で召喚士を雇い、転生時にヴェインを紛れ込ませたのじゃ、うまく誘導して姫の位置も知ろうとしたがそれは失敗だったがの、それにしても転移者が無能で助かったわい、運がなかったのぉ」
「しっかりずっと警戒していればこんなことにはならなかった、油断も慢心もしてはいけない、これは先生の教えだと言うのに、馬鹿な女だ」
「そんな・・・最初から分かっていれば、こんなことには・・・」
「あんたは俺たち二人掛かりでもやばかったかもね、でもね、あんたは負けたんだ、それでこの話は終わりさ、あんたの人生と同じように」
受け入れられない敗北そして死という現実は完全に私の心に深い絶望を生み出す。
最初から分かっていればなんてのは確かに言い訳にしかならない、後悔しても反省しても、もうどうしようもない。
絶望に打ちひしがれているとレインが作った壁が崩れ落ちていく。
「あっちも終わったようだね、兄弟仲良く逝かせてあげるよ」
「待てヴェイン、最後にエレナ一応聞いておく、姫の場所を吐けば命は・・・」
「・・・黙れ、お前たちに姫は・・・殺させない!たとえ心が折れようと死がすぐそこに訪れようと私が姫を裏切ることはない!」
「それでこそ我が弟子よ、やれヴェイン」
サナスに言われヴェインは剣を振り上げる。
ダメだ、出血も止まらない、力も入らない、すまない、レイン、姫様・・・本当に私は最後まで不甲斐ない人間だった、あの世でまた・・・
ヴェインが私の首をはねようとしたその時、ヴェインが振り上げた剣よりはるか上空から何かが急降下してくる音がする。
ビシャァァッッッ
その物体は私の横すれすれの地面にぶつかるとともに鈍い音をたて赤色の液体をまき散らす。
見るとそれは肉塊、銀色の鎧や防具は紛れもなく、あの兵士達の一人の死体だった。
崩れ落ちかけている壁の上に立ち、月明かりを受けて後ろに満月を浮かべるその死体を投げたと思われる男はヴェインやサナスなど桁違いの悪魔のような笑みを浮かべ私たちを見下していた。
「美女が絶望に打ちひしがれるその表情、たまらないねぇ」
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