第34話 激闘の銃撃戦
工場の外で繰り広げられるは銃撃戦。
障害物の少ない夜中の屋外は、良くも悪くも見晴らしは絶景であった。
2丁の銃型パイロシフターを交えて繰り広げられる撃ち合い。
今までと大きく異なる、ガンアクションに長けたバイオロイドと交戦するジル。
バイオロイドが撃ち放つ一撃を彼女は銃口から読み取る。
ジルは炎の着弾位置を予測し、足元の銃撃をジャンプで避け、横宙返りで回転する身体のまま曲撃ちで前方のバイオロイドに2発に放つ。
煙をあげた瞬間にジルも両足を着地する。
砂地へ変化した港のフィールドはステップを踏むたびに小さく砂煙が広がる。
目標は避けることなく、銃を持つ手とは反対の左腕で防ぐ。
表面の体組織が焼死し、骨のような形をした緑色の金属が出現する。
そこから驚異的な速度で残りの体組織が分裂し、金属の骨組みを包み込み、筋肉を修復させた。
「なるほど。いわゆるサイボーグというわけですか」
このバイオロイドの構造をジルは既に見抜いていた。
パンゲアの本元にある細胞と、バイオツールの技術で加工された金属によって生体に拒否反応を起こさせることなく、半動物半機械を構成させていると考えたのだ。
さらにパイロシフターを使いこなすようにプログラミングされた存在だとすれば、動力源を断ち切らない限り、そのエネルギーによって高い経線能力を誇る厄介な存在だ。
その人型に自我は無く、容赦なく彼女だけを狙うため長期戦は必須だった。
自らの攻撃を避けられ、ジルの反撃を受けたバイオロイドは、突進に近いスピードで一気にジルとの距離を縮める。
接近する人型にジルのパイロシフターは放出した炎を全て命中させた。
しかし、足止めすることには足らず、衝突ギリギリのところで横へ飛び込んだ。
地面と衝突した衝撃によって砂ぼこりが大きく舞う。
砂のカーテンによって塞がれた視界。
衝突箇所に向かって、しゃがんだ状態でパイロシフターを構える。
見えない視界から突如出現するバイオロイドはジルの正面から接近する。
彼女は咄嗟に人間の心臓部分と頭に1発ずつ銃撃を与える。
生体部分が消失し、頭部の骨組みと心臓部の骨組みに加え、胴体に精密機械が密集する地点を目撃する。
「見えたっ!」
弱点と思われる部分に到達したのも束の間、次の瞬間にはバイオロイドがジルの腹部へ強烈な下から上への膝蹴りを見舞う。
ジルの呼吸が数秒止まる。
逃げ場のない血液が上半身と下半身の末端へ一気に移動する。
「かはっ……!」
一瞬の重い痛みが腹に集中し、解放された直後、彼女の軽い身体が中に浮かぶ。
何かを吐き出そうとする内蔵は何も出せず、ただ喉を塞ぐばかりだった。
意識が遠のく感覚を全身で味わい、戻ってきた時には空中に飛ばされている。
バイオロイドがうつろな状態で落ちるジルに追い討ちをかけるようにミドルキックを放った。
意識が戻ったところで顔面直撃の脚が見え、咄嗟に両腕を盾にして衝撃を軽減させる。
それでも蹴りは重く、後方へ勢いよく吹っ飛ばされてしまう。
ダウンしたまま砂地の無い地点まで身体が引きずられ、所々に服が破れ、レギンスも大きな裂け目から肌を露出させる。
身体の痛みは腹部に背中、両腕に頭部、身体の上半分にやたら大きな衝撃を受けた。
切り傷は脚と左頬にもらっただけで済んだが、腹部の一撃により呼吸がうまくできず、息が整えることが困難な状況だった。
パイロシフターは意地でも手から離さず、ジルの右手にしっかり握られている。
「えほっ、げほっ……」
呼吸が正常になることには咳き込み、そのまま「ぜぇ、ぜぇ」と、やや呼吸が安定する。
口の中は絶えず砂の感触でザラザラが消えない。
非情にもバイオロイドはそれを待たず、近づきながらジルへ銃撃してゆく。
爆風が舞う砂地の中、フラフラの視界を通し必死で身体を起こす。
左拳を地面に叩きつけ再び2本の足で立ち上がる。
「皆を、守ります……!」
どうにかして起き上がったジルの顔は伏せられ、頭を上げることも身体に響く。
それでも彼女は顔を上げバイオロイドを獲物に飢えた獣のように睨みつけ、人型へ素早く左足にパイロシフターを撃ち込んだ。
堪らずバイオロイドが片膝をついたところで一気にジルは走り込み、頭部と胸に再び風穴を創った。
脚が修復する僅かな時間にジルは砂の山を左手でつかみ、バイオロイドに浴びせる。
砂をかぶった機械を生体はそれごと包み込み、再び立ち上がってその場を離れようと駆け出したジルの左肩にパイロシフターの炎がかすめる。
「ああっ……!!」
瞬間的に服が燃え皮膚が剥がれるほどの火傷を負い、加えて衝撃も混ざったジルの肉体はうつ伏せに倒れこむ。
すぐさま起き上がると、傷ついた左肩を反射的に右手で抑えながら振り返る。
目の前には至近距離でバイオロイドが銃口ジルの眉間を捉えている。
「ここまで、ですか……」
ジルは彩理たちの身を案じるかのように、ただ瞳をとじていた。
すると、突如バイオロイドの銃口が震え始めた。
全身から虫食いのように生体部分が壊死を始め、機械部分から火花が散り始めていた。
パイロシフターを構えるバイオロイドの右手を中心として全身にエラーが走り出す。
精密機械の弱点は、砂埃だった。
内部のエネルギーが溢れ出し、まもなく炎に包まれながらこうべを垂れる。
「これで、最後です」
止めの一撃とばかりにジルは至近距離からパイロシフターで胸部を撃ち込む。
大きく吹き飛び、地面と衝突したバイオロイドは、接続を完全に失った金属の骨組みが甲高い音を立てながら砂地へ四方八方に飛び散った。
ただただ燃えるバイオロイドの破片を見守るジル。
迫り来る人型を全滅させた彼女は、一刻も早く彩理たちへ合流しようと動き出す。
足元に目をやると先ほどのバイオロイドは落としたパイロシフターが転がっている。
彼女は、口の端を釣り上げた。
「記念にいただきましょうかねぇ……熱っ!!!」
先ほどの炎が熱伝導によりパイロシフターに伝染していた。
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