協力者
中庭に出て刀を振る。別に毎朝してる訳じゃないが、今朝は何となく刀を振りたくなった。何とも不思議な刀だ。手入れもして無いのに見た目は何時も新品だ。そんな事を考えながら宿の入り口を見る。
アイリス「おはようございます。」
お嬢様だ。何か話でもあるのかな?まぁ、俺も気になる事がある"燕返し"の事だ。なんて聞くか?
アイリス「貴方は日本人ですか?」
おお!直球だ!だけどその方がこっちとしても助かる。俺は自分の事と今までに何があったか話し、ついでにタメ口の方が楽ならそれで良いと伝えた。
彼女は地球で大学生をしていたが事故で亡くなり、ある神が魂だけ助けたそうだ。今の状況が助けた内に入るかは疑問だが。
アイリスは地球にいた時にフェンシングの選手もしていて、高校生の時には全国大会で優勝した事もあったらしい。将来を期待されていた矢先に事故が発生した。
そのアイリスの全国大会優勝に喜び、これからに期待していたのは彼女の家族だけでは無かった。それが彼女を助けた神"アテナ"だ。
アテナは今で言うとフリーランスの神という感じか、『世界』を管理する仕事には就いていないらしく様々な『世界』を渡り歩いていたが、たまたま地球に立ち寄った際にアイリスを見かけたらしい。それからしばらくアイリスの活躍を観察していて、これからの活躍も期待していた。しかし事故によりその勇姿を見る事が叶わなくなった。かなり落胆したアテナはアイリスを諦めきれず、地球を管理している神と交渉し魂を回収した。そしてこの『世界』に持ってきたと言う。何故この『世界』かというと正式に管理している神がいない為、多少の無理が出来るという判断らしい。神様の都合でここに来たと考えればアイリスも俺と似たような感じかも知れない。
アイリス「"佐々木小次郎"って聞いてまさかと思ったから話しかけたけど、悪い人じゃなさそうで良かったぁ。しかも同じ日本人だし。」
俺「まぁ、俺の場合は変な事出来る程の特権や能力とか一切無いからな。陰で細々生きてるさ。」
アイリス「その割には魔族の討伐なんて大金星じゃない?」
俺「だと良いけど。これからどうなるかまだ分からないんだよ。ゲームのシナリオとは若干違う所があるから、そのまま進行するか怪しいんだよな。」
アイリス「私もゲームはしたけどそんなにプレイしてないから知ってるルート以外だと全然分からないな。」
アイリスの場合は仕方ない。どちらかと言えばスポーツ選手だ。ゲームはフェンシングと勉学の合間を縫ってという感じだろう。1回でもエンディングに辿り着けば凄いと思う。彼女はジンと同じ学園に通うという事だからいざという時に、ジンのフォローをして貰おう。
アイリス「でもシリウスは2人の幼馴染として育ったんでしょ?どう2人はお互い気になるとかそんな話は?」
ん?いきなり話が変わった気がする。確かにゲームの中盤辺りで、ジンとエレナが会うと何となくエレナがそれっぽい感じの態度を取った時はあった。でも話の流れでは恋愛の描写は無かった。片想い的な感じに終わっていたけどどうかな?
俺「いや、8歳や9歳で好きとか嫌いってのは無いだろう。少なくともそんな感じは無かったぞ。」
アイリス「くぅ~、何で無いの?恋に年齢は関係ないと思う!何かしらの感情はあった筈!」
俺「いや、年齢は多少関係して来るだろう。思春期とか。見た限り無かったと思うぞ。いっそ学園でジンに聞いてみたらどうだ?」
アイリス「ジンの気持ちも気になるけど。エレナが一番気になるの!」
俺「えぇ、今そんなに重要?その話。」
それからしばらく恋愛話に付き合った。あるか分からない可能性に盛り上がるのはどうかと思うが、まぁ減るもんじゃないから良いかとも思う。その後、全員が準備を終え王都に向け出発した。
アイリスのお陰で旅は大分楽になったが、気になる事がある。この辺はもう少し経つと魔物が増え、護衛がいないと通るのが大変になる。でも確か今の段階では危険は無い筈。地球では盗賊の話自体聞かなかった。
といってもゲームではほぼジンの行く学園の方がメインで外に出るのは戦争開始後だ。こっちが知らなくても変じゃないとは思う。
俺達はその後、特に騒ぎも起きずなんとか王都に着いた。アイリス達は王都にある公爵邸に向かい商人は自分の店へ行く。俺達は王都に辿り着いた後、王様に謁見の申請をした。残りのする事といえば謁見の準備が整うまでの宿探しだ。さてどうするかと考えているとアイリスが公爵邸に使ってない離れがあるからそこに泊まれば?と言ってくれた。
団長は渋り安宿を見つけ泊まる事にしたが、俺はお言葉に甘える事にした。しかし使用人達は当主つまりはアイリスの親父さんが了承しないと駄目だと言う。俺は傭兵だから結果がどうなるか分からない。だけどタダで良い所に泊まれるなら断る理由はない。いざという時は団長に期待する事にしてとりあえず一緒に向かう。
フリード公爵「駄目だ!」
俺は心の中で"即決だな。"と思う。
ただ親父さんの言い分も分かる。何処の誰とも分からない奴を娘や息子を助けたからって家に泊める親も中々いないだろう。俺だって断る。
まぁ、今回は俺がお邪魔する立場だから"何もしてないのに理不尽じゃないか?"とかも思う。客観的に見て非常に現金な奴だと思われるかも知れないが、それが人間ってヤツだ。それくらいは仕方ないだろう。
アイリス「そんな!私達を助けて下さった方をこのまま帰すのは公爵家としていけないと思います!」
クリストファー「お姉様の言う通りです!お父様どうかご再考を!」
姉弟で俺を庇ってくれている。辞退した方が良いか?しかし良い布団で寝られるのはありがたい。心の中で2人に頑張れと祈ろう。使用人達の視線が痛い気がするがここは気にしたら負けなので気付かないフリをする。
フリード公爵「はぁ~、仕方ない。今回だけだぞ。おい!傭兵!悪さをしたら即刻叩き出すぞ!忘れるなよ!」
俺「ありがとうございます。」
色々言われたが、とりあえず良い所で寝られそうだ。俺はその後離れに案内された。中々に広い。1部屋がスイートルームの様だ。とは言え地球でも俺はスイートルーム泊まった事が無いから違いは分からないけど。
誰かが扉をノックする。
俺「は〜い。どちらさま?」
アイリス「私よ。入って良い?」
アイリスだ。そういえばまだちゃんと礼を言ってなかった。とりあえず部屋に入れる。
俺「ありがとう。お陰で良く寝れそうだ。」
アイリス「ふふ、どういたしまして。所でここに来たのはまだ聞きたい事があって。」
今更だけど男のいる部屋にしれっと入るのはどうかと思うけど余程の事があるのか?
アイリス「あの時話の流れで聞き流していたけど神様からスマホを貰ったって言ってたよね?」
俺「ああ、これな。」
俺はスマホを渡す。
アイリス「聞いたのは私だけど、こんなあっさり人に貸して大丈夫?」
俺「まぁ、別に見られて困る事は無いし良いよ。」
アイリス「ふ~ん。うわ、地球のスマホと一緒ね。電話とメールにこの生活必須アプリって言うのは?」
俺「生活に直結する魔導具を使う為のアプリ」
アイリス「そんなのまであるんだ?私もこのスマホ欲しい。」
俺「ちょっと返してくれ。」
スマホを返して貰い電話する。勿論電話で話す相手はノルン達だ。出たのはヴェルダンディだがアイリスの事を話す。アテナが助けた転生者でこっちを手伝ってくれるというので連絡用にスマホが欲しいと伝えた。
ヴェルダンディ「良いですよ。じゃあ直ぐに送りますね?」
俺「うん?おう。」
どう送ってくるのか分からない。嫌な予感がする。不意に部屋の扉がノックされた。
俺「はい?」
?「配達で~す。アイリス様にお届け物で~す。」
俺とアイリスの目が合う。この『世界』には無い筈のシステムだ。どういう事かかなり疑問が残るがとりあえず出る。
アイリス「私ですけど。」
配達員「アイリス様ですね?ここにサインお願いします。言語は何でも大丈夫です。」
驚きつつサインすると"ありがとうございま~す。"と言い忽然と消えた。俺もアイリスも流石に驚いた。目の前で人が消えたからだ。
とにかく箱を開けるとスマホが入っていた。取り出し電源を入れるといきなり電話が鳴る。
ヴェルダンディ「無事に届きました?良かったぁ。あの配達システムは初めて利用したので。」
聞けば地球で死んだ人間やらを別の『世界』で再利用と言うと聞こえが悪いが、そう言う事例は今回だけの話では無いらしい。酷い話だが色々な『世界』で起きているので、今回の様に神様と通信出来る事例もある。やはり長時間神様に使われていると不満が爆発する事がある。そんな事態に対処する為ある程度の不満解消を目的として、異世界人用の配達システムが導入されたらしい。頭に世界観という言葉が浮かぶが考えたら駄目か?
アイリス「神様って色々酷いね。」
俺「ああ、何か凹むな。」
アイリス「まぁ、スマホが手に入ったから私は良いわ。電話出来る相手はノルン様達と貴方と、あ!アテナ様がいる。」
俺「へぇ~、お!アイリスのアドレスが追加されてる。」
アイリス「これで遠くにいても連絡出来るわね。これからこの『世界』は魔族軍と戦争になるし、いざという時に仲間がいるのは心強いからね。」
これで何かあった時、距離に関係なく連絡出来る。とは言え俺の場合は要件も無く電話はしないだろうからな。あってもなくても一緒な気はする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます