辺境都市

人間とは現金な物だ。

生活環境の改善により仕事(女神の命令)に対するやる気が出てきた。悲しいが文句を言ってやりたいと思っても少しこちらに良好的な態度や言葉で"良し頑張ろう!"と思ってしまう。まぁ、気合いを入れて頑張るのは大事だと思うが、後で"俺、乗せられてる?"と感じると途端に凹む。人なんてそんな感じかと開き直れば済む話だが、それも中々難しい。つくづく人間は面倒臭い。

そんな事を考えつつなんとか辺境都市に辿り着く。外壁と言うか魔物の侵入避けのデカい壁がある。流石に壁がないと危ないだろうなとか、呑気な事を思いながら都市の周りを見る。確か都市の近くまで森があるはずだったのに何故か周りが荒野になっている。疑問は感じたが今はとにかく都市に入る。

危険な地域の近くにある都市だが中は以外と活気がある。都市を眺めながら歩いていると左手に豪邸が見えた。都市の中央辺りにあるという事は多分ここは領主邸だろう。俺には今の所関係無いか。

都市の住人に街の事を聞くと、この都市も数年前まで何処かの貴族が治めていたらしい。森は近いがそこまで強い魔物は出て来ない。それに出て来ても大した数ではなかったという。とは言え常駐の戦力は必要という事になり領主は行動に移った。最初に考えたのは私財で私兵を集め騎士団を作る事だが、金がかかりそうというのと自分から率先してやるのは嫌だという理由で却下。次に考えたのは冒険者を使うという案だが、冒険者は人数がいなくても個人の能力が高い為、戦力としては申し分ない。だけど能力が高い分私兵よりコストがかかる。施設の設置に整備、職員の雇用から冒険者の管理、報酬は歩合制になるだろうと考えると良い成果が出たならその分上乗せ、失敗すれば払わずに済むが依頼自体は片付かない。冒険者の生活拠点になる宿泊施設も必要となるとやはり経費がかさむ。そこで第3の選択肢として考えたのがこの『世界』で1番命の値段が安い傭兵を雇う事だったらしい。

傭兵なら汚い施設でも文句は言わずに報酬が安くとも払われるなら依頼が達成されるまで仕事を続けるだろう。死んでも変えが効くという考えもあったらしい。結果この都市の防衛は傭兵だけで行う形になった。

ある程度円滑に領地が運営出来ていても突発的な異変は起きる物だ。森の魔物を退治すると多少刺激する様でたまに魔物が異常発生する。物語などでよく聞く氾濫、スタンピードとやらが起きた。

都市が出来てから2回目のスタンピードの時、前より規模も大きく都市にも被害が出たらしい。その時当時の領主はあまりの恐怖に都市を捨て王都に逃げたらしく、それが原因で辺境伯の爵位を剥奪されたとか。その時の話を聞いた貴族達は、この都市の領主をやりたい貴族がいなかった。だからその当時、都市で1番活躍していた傭兵団の団長が領主に選ばれたらしい。

傭兵が辺境伯になるという事である条件が出された。辺境都市を出ない代わりに、この都市の領主をしてもらうという条件らしい。その時、団長が何を思ったかは知らないけど彼はその話を受けた。それにより傭兵が貴族になるという大事件が起きた。

人によってはこれからの大きな期待や励みになり、また妬みや嫉みにもなった。今でも色々と言われている様で、領主になった団長は苦労しているという事だ。

領主の話を聞くついでに傭兵達は何処にいるか聞くと東門の近くにある詰め所にいるって話だ。向かうと傭兵らしき人達が訓練をしている。遠目に見てもガラが悪い連中だ。内心『怖ぇ~、地球にいた時は絶対近付かない。』とか考えながら詰め所の中に入る。怖がっていられないし、舐められる訳にはいかないので恐怖は顔に出さないよう必死に耐えつつ建物に入る。入って直ぐの所にある受付けらしき場所で話をする。


オッサン1「坊主、ここは子供の来る所じゃないぞ。帰んな。」


物語の類いで良く聞くセリフを言われた。当然と言えば当然だろうか。正しく見た目は子供だ。


オッサン2「こんな所にいると親が泣くぞ。」


これまた良く聞いたセリフだ。心配してくれているのか追い返そうとしてくる。


俺「親はいないよ。それに傭兵になる為に来たから簡単には帰らないよ。」


オッサン1「お前にもそれなりの事情があるんだろうが、こっちも二つ返事で入れられないんだよ。」


オッサン3「何だぁ?トラブルかぁ?」


皆一斉に振り向くと第3のオッサンが立っていた。あくまでも俺の勘だがコイツが傭兵団の団長かな?


オッサン1「ああ、団長。良い所に。このガキがウチに入りたいって言うもんで。」


お!当たった。


団長「入団希望か、とりあえず試験でもしてやれ。それで使えそうなら入れて、駄目そうなら放り出せ。」


俺「こっちにもそれなりに事情があるんだけど。」


団長「だろうな。だがここじゃあ命が極端に軽くなる。ガキをおいそれと戦場に送り込む訳には行かないんだよ。」


オッサン1「でもどうします?試験なんて。」


団長「アイツがいたろ、一昨日くらいに街に入り込んだやつ。あれを使え。」


オッサン2「そういえば、いましたね。連れて来ます。」


何か勝手に進んでる。街に入り込んだくらいで捕まるって事は魔物か?人だと嫌だな。対人戦闘はいずれは何かの騒動に巻き込まれる可能性を考えると、対処できる様にならないといけないけど出来れば避けて通りたい。


団長「おいガキ。表に出ろ今から試してやる。一昨日、街にゴブリンが侵入してな。取っ捕まえたが色々あって片付けられ無くてな。丁度良いからお前が片付けろ。」


ゴブリンか、多少安心したが片付ける?死体処理も考えたが外に出てそこから移動する気配が無いとなると。

連れてこられたのは今の俺とそんなに背丈が変わらない小さな鬼だ。地球の物語とかでよく見た感じだ。この『世界』に来てから獣型の魔物は見たがまだ人型は無い。


団長「そいつを仕留めたらお前を入れてやる。」


団長がニヤニヤしながら言う。そうこうしながらゴブリンに剣を渡す。ゴブリンも困惑している。なんとなく感じるんだろう周りの傭兵達の殺気を。自分を逃す気はないと悟っている様子のゴブリンは警戒しつつ足下の剣を拾う。俺も持参していた剣を抜き向かい合う。

ゴブリンは右脇に剣を構え突進して来たが、俺は右に身体を動かし闘牛士の様にゴブリンを躱す。すぐさま左側面にあるゴブリンの首目掛け剣を振り下ろす。ザクッと音がした後ゴブリンの首が足下に転がった。

一瞬気分が悪くなったが何とか耐えつつ団長の方を見る。


団長「アッハッハ。見事だ良いぜ入れてやるよ。普通は怖くて逃げ出したりもうケリが着いてるのに滅多刺しにしたりとか、もっと酷い事になるが、こんなにあっさり片付けたのはお前が初めてだ。」


団長はそんな事を言って笑っていたが直ぐに表情が真顔になる。


団長「ただ今は本当に間が悪い。これから早速仕事を手伝ってもらうぞ。」


何処からか鐘が鳴ってる。それも教会みたいな荘厳なやつじゃなくて時代劇の類いで聞いた火事とか事件が起きた時に知らせる類いの鐘だ。


オッサン1「来たみたいですね。最近決まった時間に仕掛けてくる。これはもう団長の言う通りかもしれないですね。」


団長「考えるのは後だ。とりあえず片付けるぞ!小僧、入って早々悪いが初陣だ。着いて来い。」


俺「そもそも何の騒ぎだ?」


オッサン1「"氾濫"ってやつだよ。」

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