Worldtrace

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[Worldtrace]

新生

新生・・・新たに生まれる。今の俺の境遇はそう表現するのが一番合っているかも知れない。

俺は気が付くと見知らぬ森にいた。身体は思うように動かない。何故なら俺は赤ん坊になっていたからだ。それを理解した時、初めてこれが夢では無く現実だと分かった。


俺「あ~う、あ~う、ふぎゃ~」


とりあえず助けを求めて声を出す。声帯が発達してないからか喋れない様だ。俺に協力させたいならもう少し上手くやって欲しかった。

何故こうなったのか。始まりは真夜中、就寝中に発生した。不思議な浮遊感に目を覚ますと俺は宙に浮いていた。そしてそこには1人の女性がいた。


女性「こんばんは。私は運命を司る神で、名はヴェルダンディと言います。」


疲れていたから直ぐに眠た筈だが、まさかこんな夢を見るとは思わなかった。夢について深く考えても仕方ない。まぁ、折角なので話に付き合ってみる事にした。


俺「その神様が俺に何の用だ?」


ヴェルダンディ「単刀直入に言うと我々を助けて頂きたいのです。」


俺「どういう事?」


ヴェルダンディ「改めて説明させて頂きますね。」


話によるとこの世は『地球』以外にも『世界』が存在しているという事らしい。

その複数の『世界』はアカシックレコードって名前のコンピュータでデータを管理され、その中で起きる出来事をトレースして動く様にプログラムされている様だ。

そしてこのヴェルダンディは、その幾つかの『世界』の1つを姉と妹の3人で管理しているらしい。

ただ今回彼女が問題にしているのは、自分達の管轄している所とは別の『世界』の事だと言う。

事の始まりは創造主と呼ばれる者が『地球』を作る前に練習として、ある『世界』を作った事から始まった。『地球』を作るに時に何が必要なのかを考え、それに合わせた管理プログラムと予測演算の構築。研究と開発の為に作成した『世界』だった。そのお陰か無事『地球』の作成、運用を開始する事が出来た。

そしていつしかその『世界』は忘れ去られてしまった。

ただここで問題は?と言う話になる。なんとたまたま暇を持て余していたヴェルダンディの妹であるスクルドが、その『世界』を見つけてしまったのだ。

最初は興味本位で覗くだけだったが、気まぐれで困っている人や苦しんでいる人を見つけては人助けをしていた。

ある日『世界』を覗くと、人類の中で魔法の力が広まっていた。スクルドの事を知った別の神が面白半分で干渉したのではと考えられるが、はっきりとした原因は掴め無かった。そしてしばらくすると今度は魔物が現れ始めた。

スクルドは急いで修正に動いたが、既に"歴史"の事実として記録されていた。

その時から『世界』が剣と魔法、そして魔物の存在する『世界』になってしまった。

しかし人間は案外しぶとく、その環境に適応しながら生活をしていた。しかし元は魔物すらいない普通の『世界』だ。

どうしようと困ったスクルドはヴェルダンディに相談した。既に事象としてレコードに記録されている事だ。管理者権限が無い今は大掛かりな修正は難しく、出来る事は再生と巻き戻し。それと一時停止くらいだった。

ならばと彼女達は思考を切り替え、人間が安全に生活できる様フォローすることで状況の悪化を防ぐ事にした。

だがその後も他の神が干渉をしている様でエルフ等の亜人種が現れ、『世界』は更なる変貌を遂げていた。

そんな中、今まで以上の変異が起きた。魔物の中に魔王と名乗る者が現れ『世界』の中で暴れ始めた。

スクルドの暇つぶしがきっかけで大変な事態になり、とうとう2人は姉のウルドに全てを話して協力を求めた。そこからは3姉妹で協力し事態に対処する事にした。

先ずはと魔王を調べると、魔物から進化した亜人に近い存在らしいと分かった。自分達は直接干渉出来ない。この『世界』の中で対処させるしか無いと、魔王を倒せる"英雄"という存在を作る事にした。そして予測演算を用いてシュミレートを繰り返した。だが魔王は予想していたよりも強く、英雄1人では太刀打ち出来なかった。

思う様な結果が出ない事で、ノルン達は別の対策を考える事にした。ノルン達は人々に加護を与え強化し、英雄を支援して貰う事にした。しかしそれでも結果は出なかった。

3姉妹は悩んだ末に別の誰かに協力してもらう事を思い付いた。せめてシュミレートの回数をこなせるだけの人数が欲しい。


スクルド「ゲームの様な仕様にして人間に手伝って貰おうよ。」


スクルドの発言から『地球』の人間達にゲームという形で攻略して貰う事を考えた。アカシックレコードの予測演算をインターネットと繋ぎ、相当数のデータを収集、解析する事にした。

先ずはデータをゲーム仕様に調整し『地球』で発売した。

それが、[Worldtrace]だった。

俺もプレイしたゲームで、制作会社はチームノルンという名前だった。ノルンは運命の女神であるヴェルダンディ達、3姉妹の総称だと思うけど、まさかそのまんまの意味だとは思わなかった。

それはともかく[Worldtrace]というゲームの内容は勇者を操り、仲間を集めて魔王を倒すというよくある感じの物だ。どの道を行くか、どの仲間を連れて攻略するかはプレイヤーの自由だった。どのキャラクターでパーティを組んでも全員がメインストーリーに参加していて、中々面白い作りだと思っていた。

3姉妹はこのゲームを利用し、どういうルートだと魔王討伐のエンディングに辿り着くかをプレイヤーに攻略させた。

ゲーム自体は上手く行っている様でプレイヤーの数だけエンディングを迎えている。しかしプレイヤー達と同じ様に進めても結局はシュミレーション通りにいかず途中で流れがおかしくなった。

また何らかの干渉を受けているのではと考えられたが調べている間に別の所でまた干渉されればどこまで戻して改変すれば良いか分からなくなってしまう。

どうするべきか考えた末、干渉を受けない様に外から監視しながら、誰かが中から直接改変する方が良いのではという結論に至った。

"神"という存在は『世界』に直接赴く事が出来ない。そこで代役を立てる事にした。代役として"使徒"を送り込み、それにより内側から改変する事にした。そしてその"使徒"に選ばれたのが俺だと言う。何故俺なのか、理由は知らないらしい。俺を選んだのは姉のウルドだからだ。

色々あり過ぎて理解が追いつかない。長い話の後周りが見える様になって来た。よく見るとこの場所は俺の部屋で、俺自身は自分の布団で寝ていた。


俺「要点を纏めるとそっちの失態を修正する為にこれからその世界に行けって?・・・あそこで寝てる俺は?」


ヴェルダンディ「実を言うと貴方はあの方のコピー、クローンですね。ファンタジー風に言うとホムンクルスです。貴方の本体が赴くわけではありません。」


何か余計に混乱して来た。


ヴェルダンディ「貴方の本体の魂をコピーして私が用意した別の身体に貼り付けたのが今の貴方です。」


随分簡単に言うな。果たして必要かその工程。ホムンクルスが作れるなら俺とは関係なく1から使徒その者を作れば良いのでは?とか思うけど。


ヴェルダンディ「私達の使徒としてあの『世界』に送って歴史の流れを改変するには、人としての知識が必要だと言う事になったんです。ただ私達の管轄では無い『世界』から死者の魂を勝手に持ち出すと色々大変なんです。なので今現在生きている人間のコピーが良いという事なりました。」


俺「じゃあそっちの人間から選べば良いじゃないか。」


ヴェルダンディ「それだと管理する上で私達の仕事が増えるんですよ。これ以上の残業はしたく無いですから。それに私達の『世界』ではゲームを発売していないのでその知識が人々には無いんです。」


俺「は?それどういう意味?」


ヴェルダンディ「とにかくこれから例の『世界』に向かって下さい。魔法を想像するだけで簡単に操れる様、精神が肉体に強く作用する特異体質にもしておきますから。」


俺「ますます分からないし、何か色々説明が足りて無いと思うけど?」


ヴェルダンディ「私はこれ以上の干渉が出来ませんので。とりあえずこれから頑張って下さいね。それでは後、お願いします。」


と言われた瞬間目の前が真っ暗になり俺は意識を失った。

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