中学三年の冬、彼女の独白。

丹央心夏

幼馴染へ、私を込めて。

形あるものは、いつか壊れてしまうものだ。


それが建物であろうと、楽器であろうと。


そして……人との関係であろうと。


私は唯一の幼なじみに恋をしている。


幼い頃から数えて十二年、楽しみも悲しみも共有してきた仲だ。


家族同士も仲がいい。


そんな関係を築き上げてきたからこそ、私はここで彼に告白をすることなど、出来ないのだ。


私は卑屈だ。


だって、その告白を断られた時ばかりを考えてはその告白を止めてしまうのだから。

私は臆病者だ。


告白に失敗した時のことが怖くて、すぐに尻込みしてしまうのだから。


きっと勇気のある人なら、いつか壊れてしまう関係なのだからと割り切って告白してしまうのだろう。


でも、私には出来ない。


そこでそんなことが出来ないのが私という人間だ。


そうやって生きてきたし、きっとこれからもそう生きていく。


心の底では分かってるんだ。


きっと告白したらうんって言ってくれるだろうって。


彼はどこかふわふわしていて、頭がよくて、それでいて優しいから。


人が傷つくことに耐えられないような、それくらいなら自分が傷つくことを選ぶような人だから。


……私が告白を断られた時の悲しみなんて、彼にはすぐに分かってしまうだろうから。


それが分かっていて尚、私はその1歩を踏み出せない。


私の事を1番理解してくれているのが彼であるように、彼の事を1番理解しているのは、きっといつまでも私だから。


彼が悩んだら私は側にいて、悩みを聞く。


私が泣いていたら彼は側に来て、そっと慰めてくれる。


幼い頃から彼と私はそうであったし、そうやって支え合って歩いてきた。


そんな関係がこれまであったから私はここまで何があっても人生を歩んでこれたし、私はその関係を心地よく思っているから。


その思いと、私の恋の想いを天秤に乗せたら、きっと私はこの関係の維持を願ってしまうから。


こんなことを思うならば、いっそ赤の他人でありたかった。


それならば、失うのが怖い、なんて思わなかったのに。





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