第54話 何も考えなしに


 終始、シリアスな展開が続いた俺だが、美少女三人を引き連れて街中を散策していた。

 その中でも新顔の羽川魅音は年上でVtuberという得体の知れない人物である。


「ねぇ、君たち。今からどこ行くの? 一緒に遊ばない?」


 先頭を歩く羽川さんと兼近さんは見知らぬ男性に声を掛けられる。

 ナンパだ。


「忙しいので」と軽く遇らう二人だが、その男性は一回断られたくらいでは引かない。


「ねぇ、いいでしょ? 一緒に遊ぼう」


 その時だ。

 羽川さんは拳を男性の顔のギリギリで寸止めして脅した。


「忙しいって言っているでしょ?」


「は、はい。申し訳ありませんでした」


 あまりの衝撃に男性は跪いてしまう。


「さて。行こうか」


 上機嫌に羽川さんは前を歩く。

 怒らせるとヤバい人物であることを悟った。

 いや、初対面のあの時から既にヤバい人物なので変わりない。


「あのさ」と、俺は前を歩く二人に向けて声を掛けた。


「ん? どうしたの。冴島くん」


「えっと、俺たちは今、どこに向かっているの?」


「魅音。どこ向かっているの?」


「え? 私は亜津葉に付いてきているんだけど」


「は? あんたが前を歩いていたんだからてっきりどこかアテがあるのかと思っていたんだけど」


「え? 何よ、それ」


「えーと。つまり何も考えなしに歩いていたってことだよね?」


 結論を速水さんが言った。


「「はい」」


 なんじゃそれは。

 街中の中心に立ち止まって悩む俺たち。

 誰も考えが出なかった。


「えっと、ここで突っ立っていたら邪魔になるからどこかの店に入らない?」


「どこかって言われても」


「あ、あそこいいじゃない」


 兼近さんが指を差しながら言う。


 その先はみんな大好きハンバーガーチェーン店である。

 それぞれがカウンターで好きなものを頼んでテーブル席を囲う。


「なんだかここに来ると冴島くんと来た時を思い出すね」と速水さんは呟く。


 二人で夜遅くまで勉強した時のことだ。最近のことなのでまだ記憶に新しい。


「速水さんってこういうところあまり来ないイメージだったのに意外」


「そんなことないよ。私だって庶民なことするよ。庶民だし」


 あはは、と盛り上がる中、羽川魅音はジッと俺を見つめていた。


「あの、何か?」


「冴島くんってさ……」


「はい」


 妙な間に俺はジッと言葉を待つ。


「変な食べ方をするんだね」


「へ、変?」


「チーズバーガーとハンバーガーを重ねて食べる意図は?」


「いや、これだと食べ応えがあって美味しいから」


「それならダブルチーズバーガーを頼んだ方がいいと思うよ」


「そっちだと若干違うから」


「違うって数十円の差でしょ」


「その差が俺には大きいんだ」


「へー。そうなんだ」


 こいつ。バカにしているのか?


「そういう方法もあるんだね。勉強になったよ」と、羽川さんはニッコリと笑った。


 どっちだ。俺をバカにしているのか、それとも全く別なのか。

 分からない。その笑顔が俺には分からない。


「それよりどうする? 遊ぶって言ってもいろいろありすぎて目移りしちゃう。それに今何時? もう夕方だし、そんなに時間もないと思うけど」


「亜津葉のいうとおり。と、なればいつものあれで行くしかないんじゃない?」


「あー。まぁ、必然的にそうなっちゃうか。まぁ、私はいいけど」


「え? あれって何?」


「魅音の家で遊ぶってこと」


「うん。二人も来て欲しいな」


「え、行きたい」と速水さんは乗り気だった。


「それでいいよね。冴島くん」


 相手を知るには相手の本拠地を知る方が効率的か。

 うん。悪くないかもしれない。


「俺はどっちでもいいよ」


「よし。じゃ、決まり。魅音んちへGO!」


 行き先を決めた俺たちは店を出て彼女の家に向かうことに。

 羽川魅音。お前の正体を暴いてやる。

 そう、決め込んだ俺はワクワクした気持ちで彼女たちに付いていく。

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