第53話 総武王ダジールと反撃の赤と紫
ランブルのチーム編成の説明に懸念を示した春香。そう思った春香はランブルにチーム編成とこの広さをどうやって少人数で対応しているのかを確認した。そしてそのランブルの答えは判りやすいものだった。
「それはもっともな疑問です。まずチーム編成は出来るだけ同じ隊から30名単位で振り分けて1日を3分割し、2チームが常に防衛にあたるようにしています。また、その2チームも交代時間をずらして防衛に隙間が出来ないように調整しています。
それから少人数でどうやって対応しているのかですが、あの狂暴種どもは我々が集中して守るこの中央門に集まり攻撃してきます。だから小人数でも対応可能なのです」
そのランブルの後半の言葉に「ああ、そういうことか」と囁き、悲しげな目をしてランブルに答えを聞く春香であった。
「狂暴種が中央門に集まるのは『餌』を求めて来るのですか?人類という『餌』を‥‥」
その春香の言葉に驚く残りの聖女達。そしてランブルはその春香の問に静かに頷いた。
「はい、聖女様のおっしゃる通りです。ただ、狂暴種は確かに我々を食料と見ていますが、それよりも残虐に殺すことに喜びを感じ目的としているようです」
(はぁ、ある程度判っていた事だけど、こうやって聞くと辛いものがあるわね。美琴達はこの状況に耐えられるだろうか‥‥‥)
だが春香の予想に反した言葉が聞こえてくる。それは黄の聖女こと渋谷南の言葉であった。
「はは、そんなの判ってた事だよね。さっきは少し驚いたけどもう大丈夫。私達はここの人達と共に戦う。だってこの防御拠点が破られたらこの国に住む小さな子供達や家族がその狂暴種に襲われるんだよ?そんなの許せない」
そして青の聖女こと鳴神桜が続けて言った。
「さすがに狂暴種と正面向かって戦うことは出来ないけど私達には聖女の力がある。だから騎士さんが怪我をしたら全部治してあげる」
その他の聖女も同じような考えなのか真剣な顔で頷いていた。
(私がなんとかして皆の気持ちを高ぶらせようと思ってたんだけどね。ふふ、これは予想外だったわ)
そしてその2人の聖女の言葉で否応なしに気持ちを高揚させる8人の騎士団上層部とダジール女王。
「ふふ、はははは!7人の聖女様が全ての怪我を治してくれるそうだぞ。ならばあとは我々が戦い勝利するだけだ!」
「「おおー!!」」
これで全員の心が1つに纏まった。
それからダジール女王は並ぶ南と桜をその両腕で抱き締め言った。
「我が国の民を思うその言葉。私はとても嬉しかった。そして我らと一緒に戦う意思を見せ勇気付けてくれたあの言葉。それで我らは1つに纏まった。感謝する」
そして最後に強く抱き締め離れるダジール女王は、皆の前でこう言った。
「我らが現れることを待っている者達が居る。さあ行くぞ!」
「「はいっ!!」」
それから聖女達はダジール女王の後を付いていく。戦う騎士団が居る防御壁へと向かって。その中で春香は紫の聖女こと二階堂幸子になにかを話しながら歩いている。そしてその二階堂幸子はニヤリと笑っていた。
それから防御壁に向かい近付くにつれてダジール女王達は戦闘の激しさを知る。それは怪我をして補助員に担架で運ばれる騎士。魔力が尽きかけているのか真っ青な顔で治癒魔法を唱える治癒魔法師。昼夜問わずの戦闘に疲れ果て、その場で倒れ伏せ眠る者達。防御壁で必死に戦う騎士達。そして防御壁の外側から聞こえる狂暴種の雄叫び。
(これは酷いわね。いくらまだ銅級の狂暴種だといっても連戦で体力と気力を消耗しているのが丸判りだわ。ダジール女王の援軍要請に対する判断は正解ね)
そのダジール女王は防御壁に向かう途中で負傷した騎士を担架で運んでいる補助員を呼び止め怪我をしている騎士に話し掛けた。
「お前は第3騎士団のカイゼルだったな。その右腕は狂暴種に噛まれたのか」
その騎士は驚きに怪我のことも忘れ担架から飛び降り片膝を突き頭を下げた。
「はっ!私は陛下のおっしゃる通り第3騎士団カイゼルです。名前を覚えて頂き光栄です」
そのダジール女王は同じ様に片膝を突き、その血に汚れたカイゼルを抱き締め起こし優しい顔で担架へと導いた。
「勇敢な騎士の名前は全員覚えている。もちろんここに居る全員の事だ。補助員のお前達も含めてな。後で必ずその腕を治してやる。私の後ろに居る7人の聖女様がな」
「ええー!こちらの方々は伝説の7人の聖女様なのですか!」
そして再び担架から飛び降りようとしているカイゼルを笑って止めるダジール女王。
「ははは、そうだ。だからそれまで安心してゆっくり休め。ああ、それと私は槍を持っていない。そのお前が怪我をした腕で大事に持っている槍を貸してはもらえないだろうか?」
「ぐっ、この私の槍をダジール女王陛下に使って頂けるとは‥‥‥」
そのカイゼルは涙を流し大事な槍を手渡した。そして周りで見ている者達も感極まって泣いている。
そのやり取りを聞いている春香。
(あらゆる武器を使いこなす総武王ダジール。あなたはその腰にあるアイテム袋に全ての種類の武器を入れてる筈よね。疲労した騎士団の気力を少しでも回復させようと色々やるつもりね。私もお手伝いしないと)
そしてダジール女王はその槍を手にして防御壁まで行くと突然走り出し、防御壁の上へと登っていった。その場所は狂暴種の侵入を許し騎士と混戦になっている所だ。そのダジール女王は上まで登りきると手に持つ槍を華麗に振り回し次から次へと狂暴種を斬り落とし、また突き刺しては蹴りを放って引き抜くなどの技も見せていた。そしてあっという間に殲滅したダジール女王は槍を掲げ叫んだ。
「我は総武王ダジール。7人の聖女と最強のドラゴンライダー部隊と共にこの防衛戦に参加する。最早我らに敵う者など居ない!さあ、お前達も立ち上がり武器を持て!」
その光景を見た全ての者は押し黙り、聞こえてくるのは防御壁の外側に居る狂暴種の雄叫びだけだった。だが次の瞬間、その雄叫びが子供の泣き声に聞こえるほどの強く逞しい歓声が沸き起こった。
「「「うぉーー!!」」」
そしていつの間にか防御壁の上に上がっていた7人の聖女がそのダジール女王の両隣へ別れて並び立つ。その並びの右端に立つ赤の聖女こと朝比奈春香が一歩前に踏み出し静かに右手を上げた。するとピタリと大歓声が収まり、赤の聖女が話し始めた。
「私達は7人の聖女。そして私は『爆炎』と呼ばれる赤の聖女。その私達、7人の聖女がどんな怪我でも治してみせる。だから安心して戦いなさい。さあ、私達騎士団の反撃を始めましょう。そしてこれがその反撃開始の
するとその赤の聖女が上げた右腕から渦巻くように豪炎が舞い上がり、その豪炎から爆炎に身を包む双龍が現れた。そして赤の聖女の反対側に立つ紫の聖女も一歩前に出て同じ様に右手を上げ、ほとばしる紫の雷を発生させた。
その双龍はふた手に別れ飛び回り、その爆炎を浴びた狂暴種は火柱となり灰になる。そしてほとばしる紫の雷は天まで上ると眩い光を放ち地上に落ち狂暴種を丸焦げにし、その後に遅れて轟音が響き渡った。
その光景を防御壁の上で見ていた騎士達はあまりの凄さに誰一人動くものは居なかった。そして防御壁の内側に居た者達も双龍の姿と眩い紫の光が天に上り落ちる様子とその後の轟音に驚き固まっていた。
「さあ、あとは貴方達の格好よく戦う姿を私達7人の聖女に見せてちょうだい」
その中で赤の聖女こと朝比奈春香がそう言うと周りの騎士達が少しずつ動き出し、そして防御壁の外側を見て叫び出した。
「ぜ、全滅してるぞ!」
「ほ、ほ、ほんとだ‥‥‥‥おい!スゲーぞ!あれほど居た狂暴種が全部灰か丸焦げになってるぞ!」
防御壁の上に居る騎士達は驚き喜び、城壁内で様子が判らない者達に大声で叫び伝えていた。そして再び起こる大歓声。それはもう邪魔する
そして防衛戦は次のステージへと進む。
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