第44話 そしてプラス1の聖女の一幕
私は冒険者ギルドに様子を見に行ったカルビーンお爺さんを見送ったあと、温かいミルクを作ってくれたサーシャさんと少しお話をしてから再び眠りについた。そしてまだ夜が明けるだいぶ前の時間帯にドアを開ける音が聞こえ私は再び目を覚ました。
台所に行くと寝巻き姿に薄いカーディガンを羽織ったサーシャさんが戻ってきたカルビーンお爺さんに温かいお茶を淹れてあげていた。(むむ、サーシャさんはあれからずっと起きてたんだ。これって愛だよね?そういうのって凄くいいよね?)
そして私に気がついたカルビーンお爺さんは少し困った顔で私を招き入れた。
「おお、奏嬢ちゃんも起きてきたか。それじゃあ冒険者ギルドの様子がどうだったか説明してやろう。こっちに来て座れ」
その私はカルビーンお爺さんの正面になる場所の椅子に座り話を聞く準備を整えた。
「それで冒険者ギルドでは銀2級以上の冒険者全員を対象に聖女の森へ遠征に出る準備を始めておった。そこでワシはギルド長室に向かいダルタンから直に話を聞いてきた」
そこまで言ってお茶を一口飲み、私をじっと見るカルビーンお爺さん。私はそれで7人の聖女が関係しているのだと悟った。
「聖女の森で異変が起き、防衛をしている騎士団から援軍要請があった。そして王都に居る騎士団半数を援軍として向かわせる事になり、森の魔物討伐が得意な冒険者も連れていく事になったそうだ。あと聖女の森までの距離が問題で早馬の部隊と通常部隊の2つに分けるとも言っていた。それでな、この2つの部隊とはまた別に先陣をきる部隊が明朝に出発する。
その部隊は飛竜を操るドラゴンライダー達だ。そしてその指揮はダジール女王陛下自ら行うそうだ。それから伝説の7人の聖女も同行する事になった。その為に明朝の出発前に聖女様をお披露目するパレードを行う」
(やはりそうか。それもダジール女王陛下が先陣の指揮を取るということは、状況は良くないということだよね)
「そうなんだ。なんか大変な事になってるね。もう少し詳しい内容を知りたいんだけど教えてくれるのかな?どうなのカリーナさん?」
私は台所に入るドアの向こうで気配を殺して聞き耳を立てているカリーナさんに聞こえるように大きな声で聞いてみた。
するとそのドアが開きカリーナさんが中に入ってきて私達の座るテーブルの空いている椅子に座り、一度私達に頭を下げてから話し始めた。
「勝手に家の中に入りごめんなさい。それと時間が無いので手短に話します。まず話の大筋はカルビーンさんのおっしゃった通りです。それでその報告は第2部隊所属ドラゴンライダーのトムソンで大事にしている飛竜の限界を超えてのものでした。今もその飛竜は竜舎で生死の境をさまよっている状態です。そしてその要請依頼をしたのはその第2部隊隊長のカールです。そのカール隊長からの伝言があり『これは国を揺るがす一大事だ』と。
その事を重く見たダジール女王陛下が今回の援軍要請を承認し自ら出陣する事を決めました。7人の聖女様同行の件もダジール女王陛下の判断です。そしてこの聖女様同行についてはダジール女王陛下が説明して了承を得た結果となります。断じて誤魔化しや嘘を言って連れ出したのではない事を信じて頂きたい」
そう言って私達に順番に目を向けるカリーナさん。そしてその目には真実の文字しか浮かんでいなかった。
「それで聖女の森では狂暴種が森の外へ出てくる頻度が日を追うごとに増えており、また森の最奥からの飛沫も多く濃くなってポーションを飲んで予防している兵士の中にも不治の病を患う者が出てくるようになったそうです。
そこで第1騎士団が森の最奥に調査に向かいましたが連絡が途絶え、その第1騎士団を探しに行った第2騎士団の捜索隊も増加した狂暴種に阻まれ途中で断念し戻るといった状況にまでになったそうです。それも僅か数日で。
そしてカール隊長は第1防衛拠点を放棄し、第2防衛拠点で全騎士団を持って防衛する事を決断しました。ただ‥‥‥‥‥」
そこまで言ったカリーナさんは言葉を止めてカルビーンお爺さんをじっと見ていた。そのカルビーンお爺さんは笑って言った。
「ふっ、本来ならその第1騎士団は全滅と判断し全員で撤退するが、あのバカ息子のする事だ。志願者を募り捜索隊を組んだのじゃろう。自らが捜索隊の隊長となってな」
「カルビーンさんのおっしゃる通りです」
そのカリーナさんとカルビーンお爺さんは2人で苦笑いをしていた。
「詳細は以上です。それで奏様、あなたはどうされますか?監視に残した2人から聞きましたが色々とやらかしているみたいですが?」
(ギクッ!あの2人この忙しい状況で喋りやがったのか!気配遮断の問題点を教えてあげたのに、この恩知らず共めが!)
「ははは、なんの事かなー。私、判んないなー。それで私がこれからどうするかと?私はこれからベッドに戻ってもう一眠りするよ?」
(ここは7人の聖女が頑張るところだ。私は遠くから見守っててあげよう。頑張れ!)
「そうですか。それなら安心です。どのみち行きたいと言っても乗れる飛竜がもう居ないので無理なんですけどね。それで奏様を監視していた者も聖女の森に行くので明日から当分の間、誰も奏様の監視にはつきません。だから無茶な事はしないでくださいね。本当にお願いしますよ?」
(おいおい、なんて目で見てくるんだ。今のカリーナさんの瞳には『疑い』の2文字しか浮かんでないよ?なんで?)
「ははは、なにもせんわ!!」
「カルビーンさん、サーシャさん。どうか奏様が無茶をしないよう目を光らせて見張ってて下さい。宜しくお願いします。ではこれで私は失礼致します」
私の言葉を無視してカルビーンお爺さんとサーシャさんに頭を下げて出ていったカリーナさん。
「ふがー!そうくるなら私にも考えがある。カリーナさんが戻ってくる前にウイスキーを街中にタダで配りまくり、酔っ払いの街に変えてやる!!」
「奏嬢ちゃん、それはどうかと思うがの‥‥」
「そうねぇ‥‥‥」
こうして私の出発前の一幕が終わった。
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