第41話 動き出す王都(2)

 聖女の森から出てくる狂暴種の防衛に出ていた第2騎士団唯一のドラゴンライダーであるトムソンが昼夜問わず大事にしていた飛竜を限界を超えて操り戻って来た。そしてそのトムソンがダジール女王に報告する際での第一声は第1騎士団隊長カールからの伝言であった。


『これは国を揺るがす一大事だ』


 その言葉を聞いたダジール女王は王都に居る騎士団の半数と銀2級以上の冒険者を援軍として聖女の森に向かわせる事を決めた。

 そして国で唯一の飛行手段であるドラゴンライダーを出動させ、その飛竜にまだこの世界に来て1週間と経たない7人の聖女を同行させる事も決めた。更に国のトップであるダジール女王本人も出撃するという。

 そのダジール女王の決断に驚きながらも同意して動き出す騎士団団長ドザンと副団長、そして隠密部隊を解散しドラゴンライダー部隊の隊長となったカリーナ。そしてただ一人反対する宰相イビルデス。


「ダジール女王、それは愚策であり宰相として承認することは出来ませんな」


 ソファーに座ったまま鋭い眼光でダジール女王を睨み、その理由を語り出すイビルデス。


「この王都に残る騎士団は約2,000人。その半数と銀2級以上の冒険者を聖女の森に向かわすと?ふ、それはバカげた話ですな。往復の移動で4週間以上、そして現地での対応は最低でも1ヶ月は掛かるでしょう。

 その間1,000人の騎士団でこの6万人もの住民が居る王都を外敵から守り、街の秩序を守れと仰るですか?それも重要な護衛や高価で貴重な魔物の素材を集める主軸となる銀2級以上の冒険者も連れていくという。

 確かに今は平和な世の中です。だがこの王都の守りが長期薄くなる事を知った隣国が考えを変えて攻めてくる可能性を否定出来ません。そして貴重な魔物の素材の中には不治の病の予防薬であるポーションの原料も含まれているのですぞ?今でも供給不足の状態であるのに更に悪化し住民の不安が増し秩序も乱れてしまうでしょう。せめて1,500の騎士団と銀2級以上の冒険者の半数は王都に残すべきですな」


 その宰相の言うことに間違いはない。事実、バンデル王国のマジルートの企みの事もある。まだその準備が出来ていないので攻めてくる可能性はほんの僅かだが、長期になればその可能性は上がっていくのだ。


「そして極めつけが数少ないドラゴンライダーを出撃させる事です。確かに早く行かねば間に合わないでしょう。だが少人数だけが早く行ってどうなるのです?飛竜の利点は移動速度と空中領域を制する事。聖女の森のように深い木々に覆われ地上が見えない場所では何も役に経たない。無理して見えない地上に降りようとすれば狂暴種の格好の餌食となるでしょう。

 そして聖女様です。まだこの世界に来られて間もない。確かに聖女様の治癒があれば現地の騎士団の生存率は上がり士気にも良い影響が出るでしょう。だが聖女様を失う可能性も高い事は判っている筈です。

 最後に国のトップであるダジール女王陛下が危険な場所に出向くとは聞いて呆れますな。もっと女王という立場を理解して頂きたい!」


 そう言って手に持っていた杖を床に強く打ち付け「カンッ」と鳴らす宰相イビルデス。その場は宰相の迫力に静寂に包まれた。


「ふっ、そんなことは理解している」


 だがその静寂を破り笑って答える者が居た。それはラバニエル王国女王陛下。ダジール・ラバニエルである。


「私はこの国を愛している。そしてその国の住民全てをな。その住民を守る為に命をかけて戦っている我が兵士達が援軍を求めているのだ。それも自分達の命を助けて欲しいのではなく国の一大事だと、国を救う為に手を貸してくれと訴えているのだ。ならば全力を持って答えるのがこの国の女王である私の務めだ!御託を並べる時間があるのなら最善となるよう考えろ!そして動け!走り回って足掻け!」


 ダジール女王は赤の聖女様の血を受け継ぐ子孫である。その彼女は全身に炎を纒い威厳ある立ち姿で周りの者を鼓舞する。


「ドザン!この王都はお前に任せる。お前なら騎士団1,000人も居れば十分だろ?」


「ふっ、それだけ居れば十分です。街の住民から予備兵として鍛え、物になっている者も大勢居ます。その予備兵と騎士団から指揮官を出し街の治安にあて、騎士団100名を冒険者ギルドに回し協力して護衛と素材採取の任を果たしましょう。その残りでこの王都を守ります」


 このドザンという男はダジール女王が最も信頼する男であり、その信頼に答える実力を備えている頼もしい存在である。


「リズ副団長!お前にこの王都付近の調査と警戒を任せる。そしてドラゴンライダーを4名預けるから有効に使え」


「はっ!お任せください!」


 そう答えたのはドラゴンライダーであり『騎士団の頭脳』と呼ばれる若き女性。その姿は男を狂わせるほどの美貌とスタイルを持ち、『魔性の副団長』と陰で呼ばれている程だ。


「カリーナ!明朝一番に出発する。必要なものを準備し待機しろ。それと飛竜で街を飛び回り聖女様のお披露目する。それで街の不安を解消し反対に燃え上がるほどに鼓舞するのだ。その為の衣装や道具などの準備も任せるぞ!」


「ふふ、これは忙しくなりそうですね」


 そのカリーナは微笑みながら一礼し、善は急げと応接室を後にした。


「そしてイビルデス宰相。女王の立場を理解しろだと?これが私だ!それが間違いと言うならそんな女王など必要ない!そんなものお前にくれてやる!ただしこの騒動が解決してからだ!お前は嫌味な奴だが信頼はしている。だから頼む。私がいない間この国、この国の人達に最善となる道を示してやってくれ。ああ、それと聖女の森に向かう騎士団の段取りと冒険者ギルドへの協力要請を頼む」


 そう言ってイビルデスに頭を下げるダジール女王。そしてイビルデスからの返事も聞かず応接室を出ていった。


「ふぅ、相変わらず真っ直ぐなお人だ。それは好ましくもあり危なく感じるものでもある。私は死ぬまで隠居出来そうに無いな」


 そう言って苦笑いするイビルデスであった。


 ーーー そして明朝の街 ーーー


 太陽が上る前に飛竜に乗ったカリーナ達が聖女降臨と狂暴種討伐に聖女の森に向かうことを告知して回った結果、明朝にも関わらず街の全ての住人が街道に出て賑わっていた。


「ダジール女王陛下!!」

「聖女様!!」

「狂暴種なんぞやっつけちまえ!」

「おお!あれが伝説の7人の聖女様!」

「聖女様すてきーー!!」


 ダジール女王を先頭に飛竜で街中を飛び回る7人の聖女とドラゴンライダー達。ダジール女王は豪華な騎士服を着て右手に剣を掲げ、7人の聖女は神聖なる衣装を身に纒い住民に手を振っている。そして後ろに聖女を乗せている元隠密部隊のドラゴンライダー達は聖女と同色の派手な革鎧を身に纒い、軽めのアクロバット飛行をして住人のボルテージを上げていた。

 そして魔道具である拡声器を胸に付けたダジール女王は、身にファントムドラゴンの幻炎を纒いながら住民に宣言した。


「我がラバニエル王国女王ダジールは伝説の7人の聖女と共に狂暴種討伐に向かう!そして最強と言われる7人のドラゴンライダーも出撃する!その我らに敵うものは居ない!その間、この王都はお前達住民に任せるぞ!!!」


「「うおおおーーー!!!」」


 そしてダジール女王達は大歓声の中、空高く舞い上がり聖女の森へと向かった。


ーーーーー後書きーーーーー

2022.8.26pm16:47一部内容を変更しました。


聖女とドラゴンライダーが別々に飛竜に乗っている状況だったところをドラゴンライダーの後ろに乗る聖女としました。(聖女は飛竜を操れないので)

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