第24話 聖女の魔法とは
私は聖女の力でモルトウイスキーを造ろうと蒸留したエールが入った1つの小樽に向かって緑の聖女が持つ特殊能力『促進』を使った。
そしてしばらく待っているがまだ何も反応がない。その前に使った青の聖女の特殊能力『清涼』の時はすぐに反応が現れたのに‥‥‥
「むむむ、まさかの失敗?でも諦めちゃだめ。あなた達の絆は深く尊いの。さあ立って!立って前に進むの!あの光に向かって!!」
私は小樽とエールに向かって声を掛け応援する。そう、こだわりある応援を。
「だって
これで小樽とエールに気合いが入っただろうと1人微笑む私であった。(ほら、がんばれ!)
ーーーここは異世界にある妖精の国ーーー
「ねぇラントン、あの子また変なこと言ってるでちよ。ちょっとだけ面白かったでちけど」
背中に生えた一対の羽で空中をグルグルと飛び回る小さな少女。名前はポルニャ。白く長い髪をサイドテールにして真っ赤なリボンで結んでいる。その顔は細い眉と細い目が同じように垂れていて可愛らしい。喋り方が少しおかしいが、それも少女の魅力の1つである。
「ダジャレで魔法が発動するか!アイツ、イメージは大丈夫だけど言霊が適当過ぎる。こっちの身にもなれってんだ!」
そう言って怒るのは眼鏡を掛け痩せたサラリーマン風の小さな男。名前はラントン。その身長は15cmほどだ。そしてその背中には羽が生えている。見た目はサラリーマン風だが。
そう、この2人は妖精の国『シュトルテラ』の住人だ。そして2人は白の妖精。
その白の妖精ラントンは地面に胡座をかいて座り、手に持ったタブレットを忙しく操作して調べものをしていた。
「くそっ、小樽にニューポットを入れておくとウイスキーになる?なんで小樽に入れるだけで味が色々変わるんだ?この異世界にそんな知識はないんだよ!それでこのタブレット準備したのに地球でも詳しい理由判んないのかよ!」
きっちりとした性格のラントンは、その答えを知りたくて魔法の発動をほったらかしにしている。それにしてもハイテクな妖精である。
「もう調べるのは後でいいでち。小樽に語り掛けるあの子を見てると笑いすぎてお腹が痛くなるでち。ラントンがやらないならポルニャが魔法を使うでち!」
「待てポルニャ。お前がやるとロクな事にならない。仕方ないから今から俺が魔法を使う」
ラントンはそう言うと手に持っていたタブレットを地面に置き、背にある羽を広げ空高く舞い上がると精霊魔法を発動した。
「我は緑の力を使う。それは促進。そして我は時間をも操作する」
すると奏の前にある小樽とエールが緑に輝き、そして透明だったエールが綺麗な琥珀色に変わった。
「ふぅ、なんとか上手くいったな。それにしても琥珀色になるなんて不思議な現象だ。その味にも興味があるから一度飲みに行ってみるとするかな。あの適当言霊アホな女の子に説教も必要だしな!」
サラリーマン風ラントンは掛けた眼鏡を人差し指でクイッと上げながらそう言った。そしてそれを聞いたポルニャは細い目を見開きニパッと笑い、ラントンの周りをグルグル飛びながら話し掛けた。
「遊びに行くでちか!ポルニャも一緒に行くでちよ!久し振りに現れた白の異世界人とお話してみたいでち!」
ラントンは「大人しくするんだぞ」と言って地面に下りると再びタブレットで色々と調べ始めるのであった。
「やったでちー!この間、白金の女王様にもらったリュックにお菓子をいっぱい詰めて持っていくでち!奏に食べさせてあげるでちー!」
そう言ってポルニャは嬉しそうにどこかに飛んで行った。
妖精の国『シュトルテラ』。それは伝説の国。異世界でもその伝説を知っている者は数少ない。そして7人の聖女が使う魔法がこの精霊魔法だということを知る者はもう誰も居ない。
異世界にも妖精は居る。だがシュトルテラの妖精は特別な存在で他とは違う。何千年も生きている彼女彼らは特別な存在だ。
その何千年も生きているラントンとポルニャ。だから時間の概念が少し違うのだ。2人の妖精と奏はいつ出会うことになるのだろうか。
ーーそして場所は奏が居る部屋へーー
相変わらず小樽とエール(ニューポット)に語り掛ける奏。そして時は訪れた。目の前の小樽とエールが緑色に輝いた。
「うほー!ついにやったぞ!よく頑張ったね小樽くんとエールちゃん。2人の愛は実ったよ」
いつの間にか性別が生まれ、男女の仲になった小樽ボーイとエールガール。琥珀色になったのは新婚旅行で海に行き日焼けした結果なのだろうか‥‥‥
そして奏はコップにエールガールを入れて顔を近付け匂いを嗅ぐと、次に味わうように口に含み、そしてゆっくりと飲んでいく。
「この芳醇な香り。そして口に含むと雑味がなく大麦の甘味とフルーティーな味わいがいい感じだ。あとニューポットではカドがあったけど、それが無くなりまろやかな感じになってる。それから飲むと喉から胃に掛けてカァッと熱くなってまた違う香りを感じるの」
これは若干13歳の女の子が言うセリフではない。まるでどこかの飲んべぇオヤジだ。
奏はそれから残りの2樽のエールで1つは50年モノを造り、もう1つはチェリー酒が入っていた小樽に入れ替えて20年モノを造った。
「うん、どれもいい感じに出来たね。これならエルフィーさんも喜ぶんじゃないかな。昼御飯を食べたら行ってみよう」
奏は知らない。このウイスキーで新たな聖女伝説が生まれることを‥‥‥
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