第16話 奏は武器を手に入れる

 幼女成分を補給した私はひたすら歩く。そしてやって来ました城下町一番の商店街『花売りの子供達が集う場所』へ。(さっき私が命名したんだよ?お洒落でしょ?)


 この商店街はすでにリサーチ済みだ。私は脇目を少しだけ振りながら目的地を目指した。そして目的地に着いた私は目の前にある看板をじっくりと眺めるのであった。


『武器屋』


 それはなにもアピールしてない必要最低限の言葉。そして極太の筆で乱暴に殴り書きしたような黒一色の極太の文字。


「私のハートにビンビン響くその極太の文字と飾り気の無いその言葉。この店にはなにかがあるとマイハートが訴えかけてくるよ」


 私は襟元を正して武骨な両開き横スライドタイプの扉を勢いよく開けた。(お城の浴室前のキンキラレール扉を思い出すけどここは大丈夫だよね?)


「たのもーー!」


「しゃーーー!ズバンッ!」


(ここもなのかーー!この異世界の両開き横スライド扉はこれが常識なのかーーー!)


「うるさいわい!そんな大声出さんでも聞こえとるんじゃ!」


 凄まじい音を鳴らした扉については一切触れず、私の倍以上の声を張り上げて文句を言っているのはカウンターに居る武骨な男だった。

 その風貌ふうぼうは40歳くらいで頭に薄汚れたタオルを巻き、揉み上げとアゴ髭が繋がっている背の低い筋肉小太りな男。まるでドワーフのような‥‥‥ん?


「おっちゃん、もしかしてドワーフなの?」


「なんじゃ?お主はドワーフを見たことがないのか?がははは、そうだ、ワシはこの街一番の武器屋でドワーフのエルフィーじゃ!」


(えーと‥‥ちょっと待ってね。エルフィー?エルフ?でもドワーフ?はぁ?)


「エルフなの?」


 するとその髭もじゃドワーフエルフィーが不機嫌な顔になりながらも説明してくれた。


「種族がドワーフで名前がエルフィーじゃ。見たら判るじゃろうが!あんなヒョロヒョロでのっぺりとした顔のエルフと一緒にするな!この名前はお茶目な性格の母親が微笑みながら名付けしてくれたんだよ!」


(それ、微笑みじゃなくて笑いを堪えてたんだね。ほんとお茶目だね)


 そして納得した私は本題に入る。


「素敵なお母様ですね。あと自己紹介がまだでした。ごめんなさい。私は麻生奏13歳です。それではエルフィーさん、私に武器を売ってください」


 その言葉にエルフィーさんは真剣な顔になり、私を足先から頭の天辺まで鋭い目付きで観察する。そしてカウンターから表に出て来たかと思うと「手を出せ」と言って私の手を握り手の平を確かめると、腕や肩そして太ももまで触りまくった。(お前、やりたい放題だな)

 それからまたカウンターに戻ると、おもむろに酒瓶とコップをどこからか取り出して飲み始めた。その時間なんと10分だ。でも私は気にしない。こだわりを持ち出来る職人はどこか普通と違う感性を持っている。この時間がエルフィーさんにとって大事な事をする前の儀式のようなものなのだろう。


「それでなにが欲しい。鋭い切れ味のナイフか?それとも投げナイフか?弓矢もいけるようだがお前は近接戦闘タイプだろ?」


 やはりエルフィーさんは出来る職人だった。私の戦闘スタイルを見事に当てた。


「ナイフ1本と出来れば投げ捨て用の先が鋭い鉄棒が10本ほど欲しいです。それと鉄棒を入れる物も。その入れ物は革製で右太ももと腰の後ろから取り出せるような物がいいです。あっ!今の手持ちは金貨2枚しか無かった‥‥‥‥すいません、金貨1枚で買える安めのナイフありますか?」


 私は手持ちが少なかったので金貨1枚で買える安いナイフを探すつもりだった。でも出来る職人のエルフィーさんに出会ってその事を忘れてしまっていた。


「そこで待ってろ」


 エルフィーさんはそう言ってカウンターの後ろにある扉を開けて出ていった。(そこの扉は普通に開くんですね)


 この店は横長で幅5m奥行き2mのなにもないスペースがあり、その奥に境界のように長さ(部屋としては幅)4mほどのカウンターがあるだけだ。(残りの1mは通路だね)


 それから10分ほどでエルフィーさんが手に色々なものを抱えて戻ってきた。そして抱えていた物をカウンターに並べていく。


「奏、説明するぞ。まずこのナイフだ。刃渡りは20cm、片刃で普通より少し厚めのものだ。先端は鋭く突きにも使える。

 材質は高炭素鋼でミスリルを10%混ぜ込んである。切れ味が鋭いだけでなくミスリルの効果でサビ難く粘りもあり刃が欠けることもまず無い。グリップ部分には滑りにくいロックドラゴンの革を使っている。奏の手に合うように調整済みだ」


 私はエルフィーさんからナイフを受け取り使用感を確かめてみる。グリップは私の手に吸い付くようで握り具合もバッチリだ。そして比重のバランスも申し分ない。軽く振ってみたが以前使っていた特注のサバイバルナイフがオモチャのように思えるほど最高だ。

 私は嬉しくなってフットワークも使い、時間が経つのも忘れその感触を楽しんでいた。そして満足した私は惜しむようにそのナイフをカウンターに置いた。


「エルフィーさん、こんな凄いナイフ初めて見ました。私はどうしてもこのナイフが欲しいです。でも今はお金がありません。必ずお金は準備します。だからこのナイフは誰にも売らないでください。お願いします!」


 この先これ以上のナイフを見ることは無いだろう。だからどうしてもこのナイフが欲しい私は深く頭を下げてお願いした。


「金貨1枚でいい。これから説明する物も含めてな」


 私はそのエルフィーさんの言葉をすぐに理解する事が出来なかった。これほどの逸品を金貨1枚で買えるとは考えられないからだ。


「えっ?どういう意味ですか?」


「このナイフはワシが自慢するほどの代物じゃ。だから使いこなせる者にしか売る気は無かった。ワシか気に入るヤツは何人か居る。だがそいつらは剣を使う。ナイフではないんじゃ。

 そこでお前がやって来た。ナイフをメイン武器として使う奏がな。ワシの見立てにお前は合格した。さっきのナイフを持って動く姿を見ても間違いないと確信した。だから使ってくれ。ワシの自慢のこのナイフを」


 私はエルフィーさんの言葉に嬉しさで体が震えていた。尊敬する職人に認められたのだと。


「エルフィーさん、あなたの期待に応えられるよう頑張ります」


 私は再びエルフィーさんに向かって深々と頭を下げるのであった。


(あれ?私は聖女なんだよね?なんか戦闘タイプの剣士みたいになってるんだけど‥‥まあ嬉しいから細かいことは後でいいか)


 私はエルフィーさんから再度ナイフを受け取りニマニマとそのナイフの刃を眺めるのであった。(このナイフ最高ーー!)

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