第4話 聖女プラス1は城内を散策する(2)
私は自室の三階の窓から鉤爪を使って四階の窓までやって来た。どうしてこの四階の部屋を目指したかと言うと、周りを見渡す限り近場で部屋の灯りがついているのはこの部屋だけだったからだ。因みに三階の朝比奈さん達の部屋の灯りはついてたよ。だけどたぶん夕食を食べに行ってるので部屋には居ないし覗き見する必要が無いから除外した。
私は壁にある僅かな突起に足を掛け、鉤爪を使って体を固定する。そして気付かれないようにそっと窓から部屋の中を覗いた。
(おっと当たりだ!神官助手と見知らぬおっさんが話をしてる。何を話してるのかなぁ)
この城の窓は上に押し上げて開けるタイプで透明度の低いガラスがはまっている。窓に張り付いて聞き耳を立てると私の影でバレてしまうだろう。だから私はほんの少しだけ窓を押し上げた。(カギが掛かってなくて良かった~)そして窓の下へ身を隠して話を聞いた。
「それで聖女は本物だったのか?」
「はい、確かに書物に記載されていた紋章でした。色も間違いありません」
その神官助手の女性と話しているのは背の高いスラッとした父親くらいの年代の男声だ。賢そうな顔をしているが表裏のある性格をしていそうな顔付きにも見える。
「それで7人以外にもう1人聖女が居るそうだが能力は持っているのか?それと性格はどうなんだ?その余り物の聖女が操りやすそうな人間ならば早めに手を打って7人の聖女を手に入れる為の駒にしたい」
「はい、奏と言ってとても小さな女の子です。7人の聖女とあまり親しくないのか1人で居る事が多く見られました。能力については未確認ですが紋章は発現しておりますので聖女の治癒能力はあると思われます。特殊能力についてですが他の聖女は能力に対応する色付きの紋章ですが彼女は白色です。もしかすると特殊能力が無いのかも知れません」
(小さいって身長だよね?まさか胸の事じゃないよね?そうだと言ってー!)
私は部屋の中に乗り込りこんで神官助手に聞きたい気持ちを我慢して話の続きを聞いた。
「白の紋章か‥‥‥7人の聖女とも仲が良くなく特殊能力を持たない役に立たん小娘かも知れんが一応飼い慣らしておけ。何かの使い道はあるだろう」
(ぐぬぬ、あのオヤジめ。あぁ、部屋に入ってその偉そうな顔を殴りたい。グーパンで左右連打の乱れ打ちで‥‥‥)
神官助手といいあの偉そうな男といい、私のか弱いハートをいたぶりやがって。いつかギャフンと言わせてやるからな!
ふぅ、落ち着け私。それはそうとちょっと試してみようかな。私は藍色の聖女が持つ特殊能力『鑑定眼』を使ってみることにした。
(さあ見せてもらおうか聖女の能力とやらを)
聖女の能力の使い方は、その能力を使おうと意識することで使い方が元から知っていたように頭の中に浮かんでくる。それはとても簡単な方法だった。私は窓に顔を覗かせてあの嫌味な男と神官助手に鑑定眼を使った。
「鑑定」
ほらね、とても簡単でしょ?
すると私の頭の中にパネルが二枚現れて、それぞれのステータスが表示された。
ーーーーーーーーーー
フリンデ・リコーン 42歳
バンデル王国 子爵
LV13 一般職
体力40 魔力15 腕力8 素早さ10 知力38
魔法 生活魔法 スキル 話術5 絶倫10
ーーーーーーーーーー
ステラ・アイジーン 28歳
バンデル王国 神官助手
LV7 神官助手
体力 12 魔力 21 腕力7 素早さ18 知力36
魔法 生活魔法 スキル 癒しの祈り 床上手
ーーーーーーーーーー
「ぶはっ!ふ、
私は窓から顔を隠して大爆笑だ。(面白すぎてお腹がよじれちゃうよ~)
「誰だ!そこに誰か居るのか!」
私の大爆笑に気が付いたフリンデ子爵が窓に向かって叫び、ステラ神官助手に「すぐにあの窓を調べろ」と指示を出す。
(やばっ、見つかっちまったぜ)
私は鉤爪を窓から外しサーカス団員顔負けの機動力で三階の自室へと舞い戻る。そしてソファーに座り、覚めた紅茶で喉を潤した。
「ふぅ、今日はここまでにしとこう。出来れば城内を色々と見ておきたかったけど見回りの兵士が居るから厳しかっただろうな」
私はクローゼットから寝巻きになりそうな服を探して着替えベッドに横になって先ほどの事を思い出す。(着替えたくさんあったけどピッタリなサイズだった。メイドさんが見立てたのかな?スゴいねメイドさん)
「あのステラ神官助手はやはり貴族の内通者だった。朝比奈さん達を取り込む為の駒にしようとするならば、今日の夕食を私1人で食べるように仕向けたり睡眠効果のある薬草を食べさせたりする事はしない。だとすると他の誰かだけどザビル神官?何の為に?」
私は情報量の少ない状況で考える事を諦めて、明日の王様との謁見に備えて眠ることにした。(夜更かしはお肌の天敵だからね!)
「それじゃあ、お休みなさい。あー、お風呂入りたかったなぁ。朝比奈さん達はお風呂をお呼ばれしたのかな?羨ましいな‥‥‥」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は
「春香、私達これからどうなるのかな。家族は私が急に居なくなって悲しんでると思う。早く家に戻りたいよ‥‥‥」
橙色の紋章を持つ
「美琴、気落ちしないで聞いてね。私もね『すぐに帰れるよ』と言いたいけれど多分無理。それはザビル神官長は聖女に関する書物は全て読んでいる筈なの。だけど戻る方法を知らないと言うことは元の世界に戻ることは困難だと言うことなの」
私の言葉に美琴はこの世の終わりを迎えたような真っ青な顔で泣き崩れ、周りを見ると他の五人も泣いていた。
「でもね、私は諦めないわよ。ザビル神官長が知らないのは過去の聖女達が元の世界に戻らなかったから。だから召喚の技を読み解けば必ず元の世界に戻れる方法がある筈なの。
どれだけ時間が掛かるか判らない。でも必ず私があなた達を元の世界に帰してあげる」
私はそう言って泣き崩れた美琴を強く抱き締め耳元で囁いた。(これから先は長くなる。ここで気落ちしている暇は無いの。頑張って)
私の言葉にみんなは少しだけ元気を取り戻したようだ。だがまだ足りない。私は更に言葉を継ぎ足した。
「そう、悲しんでいるだけでは何も変わらないの。せっかく異世界に来たんだから楽しみながら元の世界に帰る方法を探すのよ。
ふふ、クラスのオタク男子、私達が異世界に居る事を知ったら悔しがって泣くでしょうね」
「ぶふっ!春日と柳の悔しがって泣いてる顔が目に浮かんじゃた。あの二人、私達が魔方陣に包まれて消えたから異世界に行ったと思ってるよ。間違いない!」
「「ははは、絶対そうだね!」」
やっとみんなに笑顔が戻ってきた。いい雰囲気だ。(これでいい)
それからはメイドさんが準備してくれた紅茶とお菓子を食べながら、楽しくお喋りをして夕食までの時間を過ごす私達。そして夕食の時間になり、私達はメイドさんの案内でザビル神官長が待つ部屋へと向かった。
私は一番後ろを歩きながら、はしゃぐみんなを見る。これからの事を考えながら。
(みんなに今は元の世界に戻る方法は無いと言ったけど、誰かが隠している可能性もあるのよね。王様や貴族、そしてザビル神官長。
でも今はみんなが不安になるような話はするべきでは無いわ。まずは情報収集。そして誰が味方で誰が敵なのかを把握する事。でも1人では大変だから協力者が必要ね)
私は前を歩く五人のうち、常に冷静な目をしている
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