第2話 7人の聖女

 7人の聖女伝説。それは遥か昔の出来事。


 この国が望むのは私達に伝説の聖女と同じように奇跡の力で人々の怪我や病気を治し、驚異となっている魔物達を討伐する騎士達の補助をすること。


 神官長ザビルさんが私達7人がその伝説の聖女である事をこれから証明すると言う。(神官長ザビルさんは今までの説明してくれた豪華な服を着た初老の男の人だよ。なかなか自己紹介しないから朝比奈さんが聞いたんだ。あっ、朝比奈さんは質問をしたあの凛々しい女の子だからね)


 その神官長ザビルさんは「立ち話もなんですから落ち着ける部屋でゆっくりとお話をしましょう」と私達を別の部屋へと連れ出したの。

 その部屋はここから5分ほど歩いた場所で広さは12畳ほどだろうか。シックな感じの焦げ茶色の長いソファーが楕円形のテーブルを挟んで置いてあり、その両サイドには1人掛けのソファーがあった。

 その他は壁に景色を描いた絵が飾ってあったり綺麗な花瓶があったりと、よくある感じの落ち着いた部屋だ。


 この部屋には私達以外は神官長のザビルさんとお付きの神官助手の女性が1人。あとは部屋付きのメイドさんが2人だけ。最初の部屋に居た兵士達は数人だけ付いてきて扉の外側で見張りをしている。

 その私達は部屋付きのメイドさんに案内されて二つの長いソファーに別れて座った。(良かった‥‥‥女の子達に私だけ『一人掛けのソファーに座ってね』と言われるかと思った)


 そして神官長ザビルさんは一人掛けのソファーに座り、神官助手の女性はそのザビルさんの後ろに立っている。


「それでは7人の聖女様についてご説明させて頂きます。先ほど朝比奈様が聖女様である事の確証があるのかと尋ねられましたが確認する方法はあります。それも簡単にです。

 それは書物に記載されておりました。その7人の聖女様は共通する治癒魔法を持たれておりますが、それとは別に個々が得意とする魔法があるのです。それは色で識別されており、左の手の甲に紋章として現れます」


 その話を聞いた女の子達は左手の甲を見てみるが、誰一人として紋章は無かった。その事に安堵する4人と反対にガッカリしている2人。これは召喚された事に泣いていた女の子4人と微笑んでいた女の子2人の反応だ。

 そして朝比奈さんはこの話には続きがあるんでしょ?とザビルさんに目で訴え掛けていた。(朝比奈さんはホントに凄いね)


「その紋章ですが体に魔力をまとうことで発現致します。聖女様の世界では魔力の存在を認識されていないと書物に書かれています。そしてどうやって魔力を認識出来るようになったのかも書かれておりました。

 それは願う事で発現すると。さあ、言葉にしてください。『我に魔力を』と」


 それを聞いた微笑み組の2人が躊躇ためらいもなくその言葉を口にした。


「「我に魔力を」」


 そしてその2人の手の甲に現れたのは黄色と青色の紋章だ。その紋章は複雑な形をしており個々に違うようだ。それを見てお互いに見せ合い喜ぶ微笑み組。そして諦めた顔をして紋章を発現させる泣き組の4人。


「我に魔力を」


 そして最後に朝比奈さんが唱えて、その手の甲に赤の紋章を発現させた。その7人の手の甲に現れた紋章の色は、赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、紫だ。


「ああ、虹色なのね」


 さすが朝比奈さん。すぐに虹の7色にたどり着いた。他の女の子達は「あー、ほんとだ!」と手の甲の紋章を見ながら驚いている。

 そしてそれを見たザビル神官長、助手、メイドが膝を着き右腕を胸の前に掲げ頭を下げた。


「間違いなく書物に記載されている紋章と同じもの。改めてお礼申し上げます。お越し頂き感謝致します。7人の聖女様」


 それからはメイドさんが出してくれた紅茶を飲みながら、その紋章の色についての説明を聞いた。(お菓子は無いの?)


 朝比奈さんの赤の紋章は「爆炎」と呼ばれる存在で、聖女の中で2人だけ攻撃魔法が使える中のその1人。そして最強の聖女との異名を持っている。その爆炎はドラゴンを形取り飛び回り、迫り来る魔物を黒焦げにし、また爆発により粉々にしたそうだ。(なんて恐ろしい‥‥朝比奈さん、ちょっと顔がヒクついてるよ)


 その他は、


 橙色(癒し) 全ての状態異常を無効化する

 黄色(恵み) 土壌改善で豊作をもたらす

 緑色(促進) 成長を促し実りを早める

 青色(清涼) 水質改善で潤いをもたらす

 藍色(洞察) 鑑定眼を持ち全てを見通す

 紫色(紫電) 雷を操り攻撃する


 と言う風に、戦闘に関するモノが3人で生活に関するモノが4人となる。これはあくまでも聖女の奇跡の力と言われる治癒の魔法とは別物で、治癒の魔法は全員同じものらしい。


(はー、話が長い。私はいったい紅茶を何杯飲んだの?もうお腹がタプタプだよ。せめてお菓子があれば良かったのになぁ)


 そんな事を考えていると周りからの視線を感じる私こと奏ちゃん。あー、そうですよね。私の紋章を確認したいんですよね?

 ずっと存在感を薄くさせてたけどやっぱり無理だよね。そりゃそうだ。


 私は観念してあの言葉を唱える。


「我に魔力をチョーダイな」


 ちょっとだけアレンジする私。そして手の甲に浮かぶ紋章は白色で物凄くゴチャゴチャした形をしていた。


「白の紋章‥‥私が読んだ書物に記載はありませんでした。と言うか、7色以外はどの書物にも記載はありません」


 そう言って不思議そうに私の手の甲にある白の紋章を見つめるザビル神官長。そして思っていたモノと違ったと言った表情を見せる朝比奈さんが居た。


「もしかしたら黒色の紋章が現れるかと思っていたけど違ったわね」


 そう言った朝比奈さんに隣の女の子が不思議そうな顔をして話し掛ける。


「ん?なんで黒色だと思ったの?」


 そして朝比奈さんが答えた。


「それはね、もし紋章が発現するとしたら私達の色を全て混ぜ合わせた色かなと思ったの。その場合は濃い茶色のような黒色になるの。もしくは紋章が発現しないかとも思ったけどね」


 それを聞いた周りの女の子達は『なるほど~』と頷いていた。


 朝比奈さん、いいセンいってたけど惜しかったね。確かに絵の具であれば黒色に近いものになるんだけど、それは絵の具だからだよ。『減法混色』ってヤツだね。

 光の色の場合は『加法混色』といって、7色を混ぜ合わせると違う色になるんだ。これ知ってる人って割りと少ないんだよね。


 それでその光の色が混ぜ合わせると‥‥‥


『白色』になるの。そう、私の紋章の色。


 たぶん私は全ての色の魔法が使える聖女。そして白色だけに使える魔法もあるだろうね。


 だから改めてこう言うの。


 『私はプラス1の聖女』だと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る