7人の聖女プラス1

七転び早起き

召喚した7人の聖女プラス1

第1話 プラス1の聖女

「お越し頂き感謝致します。7人の聖女様」


 それが異世界で初めて聞いた言葉だった。


 私は麻生 奏あそう かなで13歳。とっても可愛い女の子。可愛いのは身長と胸周りだけどね。

 そんな私は誰もが憧れる?帰国子女。三歳になる頃に父親と二人海外で暮らし始めたの。そして今は高校受験の為に日本に戻って来た。

 どこの国に住んでいたのって?それはね、定住せずにあちこちで暮らしてたんだよ。その中で一番長かったのは何処だと思う?アメリカかイギリスかなぁって?


「アフリカだよ?それもジャングル」


 ふふ、私のお父さんね、サバイバル大好きバカなの。それも極度の。


 そんなサバイバル大好きバカに小さい頃から鍛えられた私はスーパーサバイバルガールなの。もう訳判んないよね。はははは‥‥‥‥


 でもやっと憧れの日本に戻って来れた。幼稚園も小学校にも行かずジャングルを駆け巡り、砂漠をひたすら歩き、野生の動物を殺してマンガ肉のような肉を豪快に食べる生活はもう終わり。これからはお友達をたくさん作ってキャッハウフフな生活を送るの。


 そんな妄想をしながら歩くのは、これから私のパラダイスとなる場所。それは産まれて初めて通う中学校。今日は転校初日で担任の先生に連れられて、私のパラダイス教室に向かっているところなの。あー、楽しみでウキウキしちゃうよ。ん?緊張しないのかって?そんなの今までの生活を考えたら判るよね?


 あー、嬉しすぎて指と首の骨をポキポキ鳴らしちゃった。担任の先生、そんな驚いた目で見ないでね。うふっ、少しだけ恥ずかしいの‥‥


 そしてとうとう来ました教室の前。担任の先生は私に向かって「それじゃあ入るわよ」と言って教室のドアを開け中に入って行った。


(うはー、楽しみで大興奮だー!)


 私は心の中で喜びを言葉にしたあと、何事も最初が肝心だと大人しい女の子を演じるよう心掛け、教室の中に足を踏み入れた。


「ん?なにこれ?」


 そして教室に入った私は何故か光輝いている。それはよく見ると光輝いているのは私ではなく私を取り囲む何かであった。

 その何かは幾何学模様の魔方陣。何処かの国で黒魔術の勉強をしたが、その中に同じようなものがあった。そして周りを見ると同じように魔方陣に包まれて驚いている女の子が7人居るのが目に入った。


(これって歓迎の演出とかじゃあ無いよね。それだったら嬉しいんだけどなぁ)


 そんな呑気な事を考えていると突然視界が切り替わる。その視線の先には神官の服を着る複数の人達が居た。そしてその脇には槍を持った兵士が並んで立っている。

 そして私の周りには、教室で見た魔方陣に包まれた7人の女の子が床に座り込んで唖然としていた。(可愛いの女の子ばかりだね)


 私は手で抱えているカバンから赤く可愛いペンケースを見つけ出し、あるだけのボールペンとシャーペンをそっと判らないように取り出した。そして一本だけ握り締め、残りは服のポケットにねじ込んだ。いざと言う時の武器とする為に。


 そしてそんな私達の前に1人の神官が歩み寄って来た。それは神官の中でも一番豪華に見える服装をした初老の男。二メートルほどまで近付くと、片膝を着いて右手を胸の前に掲げ頭を下げ感謝の言葉を口にした。


「お越し頂き感謝致します。7人の聖女様」


 そう、これが異世界で初めて聞いた言葉。そして私の憧れのパラダイスな中学生活終了を表す言葉でもあった。


(とても短い中学生活だった‥10秒くらい?)


 私はその場で崩れ落ち項垂れた。(こ、この怒りは何処にぶつければいいの?)


 その項垂れ座り込んだ私とは正反対に、7人の女の子は立ち上がり周りをキョロキョロと見回していた。そしてその中の1人が話し掛けてきた神官に向かって質問を始めた。


「あの‥‥‥ここは一体何処なんでしょうか?私達はただの学生です。その私達を聖女様と呼ばれましたが何かの間違いです。出来れば今すぐに元居た場所に戻して欲しいのですが、それは可能でしょうか?」


 その女の子は意外と冷静に周りを見て今の状況を理解しているようだった。(可愛い顔して肝が座ってるね。好印象だ)


 そしてその神官は立ち上がり、質問をした女の子に向かって一礼をして質問に答えた。


「ここは聖女様の居た世界とは違う世界。次元の違う場所と言った方が判りやすいかも知れません。この世界では7人の聖女様の伝説があります。それは召喚の義によって異世界から7人の聖女様がこの世界に舞い降りて、この世界の怪我や病気で困っている人々を救い、また勇者と共に悪に立ち向かい平和な世界を取り戻すと言ったもの」


 そこで神官は一区切りして私達の反応を見て理解しているかの確認をした。そして理解していると判断し続きを話し始めた。


「今の世界には勇者を必要とするまでの悪は居ません。ですが驚異となる魔物が増え、原因の判らない病気に犯される人々が増えて来ているのです。その為、伝説に残る7人の聖女様のお力を借りようと、神殿に保管する書物から召喚の義を行う秘技を読み取り行いました。そして現れたのが聖女様。あなた方なのです」


 神官から聞いた話で現状を理解した女の子達は輪になってコソコソと話し始めた。床で項垂れている私を残したままで。(出来ればその輪に入れて欲しいなー。寂しいなー)


 そしてチラチラと私を偶に見ているが話し掛けてくる気配はない。その話し合いは10分ほど続き、終わると先ほどの女の子が神官に向かって話し始めた。


「状況は理解出来ました。ですが私達が聖女だと言うことを信じることが出来ません。何か確証を得る為の手段があるでしょうか。

 それと元の世界に戻れるかの返答を聞いていません。これが一番大事な質問です。嘘偽り無く返答をお願いします。あと7人の聖女と言いましたが私達は全員で8人居ますよ。おかしくないですか?」


 それを聞いた神官達は、慌てて人数を数え始めた。(今更なの?気が付かなかったの?)そして数え終わった神官は動揺していた。


「ほ、本当ですね。伝説は7人で間違い無いのですが‥‥‥それでまず帰還についてですが、正直なところ判りません。書物には聖女様達は勇者と悪を討伐したあと、この国で幸せに暮らしたと記載されております。

 これから他の書物も確認してみますが、出来ればこの国に生涯居て頂ければと‥‥聖女様には最高の環境を未来永劫提供させて頂きます。時間を掛けて考えて頂ければと思いますがどうでしょうか」


 現時点では元の世界に戻る事が出来ないと判った7人の女の子のうち、4人は抱き合って泣き2人が微笑み、残りの1人が難しい顔をして考え込んでいた。(残りの1人は質問をした女の子だ。凛々しい顔をしてるね)

 そして私は夢の中学生活を楽しめなくなった事に不機嫌だ。(私の青春を返せ!)


 そしてこの世界に残って欲しいと懇願した神官が次に聖女の事について話を始めた。


 その話で私が伝説の7人の聖女で無いことが判る事になるの。でも聖女の力は持っているけどね。だから私は余り物の聖女。


 そう、「プラス1の聖女」とでも言っておく事にしたのだ。

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