織姫 優華〈1〉

もうどうでもよかった。


その日は優華の16歳の誕生日だった。

会社を経営していて忙しく、滅多に家に帰ってこない両親も数年前までは一人娘である優華の誕生日を祝うためな休みを取ってくれていた。3人で住むには広すぎる家で食事をとるだけだったが、優華にとっては両親に会えることが楽しみだった。

ここ数年、両親はさらに忙しくなり優華の誕生日の日にすら帰って来れなったが、プレゼントを枕元に、とおめでとうの言葉をメッセージアプリへ送ってくれていた。

しかし、今年はプレゼントどころかおめでとうの言葉すら送ってくれることはなかった。

もう、何週間両親の顔を見ていないだろう。

家では家政婦サービスの人が働いてくれてはいるが、その人も仕事が終われば帰ってしまうため3人でも広い家で優華はひとりぼっちでねむるのだ。

1人で眠ることにも、優等生を演じることにももう疲れてしまった。

全てから逃げてしまいたい。

そんな気持ちが強くなり、適当な駅で電車を降りた。ふらふらと知らない住宅街をさまよい、知らない細い路地を行ったその先で。


陽は沈み、辺りが薄闇色に染まり始めたその中で。暖かいオレンジ色の光が照らす、どこか神秘的で優しく包み込まれるような古民家を見つけた。

「こころ…わ、亭…?」

引き寄せらるように近づくと〈心和亭〉と書かれた木製のドアプレートと「ただいま営業中」の文字が。

優華は無意識のうちに扉を押していた。

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