第4話 (4)

 王都のそこが抜けた。

 そこから災厄の王が顕現する。

 灰色にざらついた、巨大な手のように見える。

 クラスメイト達は各々の精霊の力を振るい、それに攻撃を加える。

 ぼくとリナリアに抱えられ、はるか上空からその様子を見ていた。

「俺の心臓がある。お父様のなかだ。あいつ俺の生命線を握っていやがる」

「どうする?」

「ぶち抜いて俺の心臓を取り戻す! 付き合えよ、カイ」

「いいよ」

 リナリアはぼくを強く抱きしめた。

 赫く眩い輝きがぼくを包む。


 その赫は、なんだか暖かい。

「カイ、俺といこう」

 ぼくとリナリアは融合を果たす。

 精霊と異世界人の協力とはそういうものらしい。

 異世界人の体を通して精霊の力を行使する。

 しかしリナリアは特別で、単独でその精霊の力を行使していた。

 し、ぼくはそれをただ見ていた。

 そんな彼女が今日、ぼくの体を使いたいと言ってきている。

 異世界人と精霊の力の関係は媒体の関係だけではない。

 双方のもつ存在の力の乗算でもあるのだ。

 リナリアは持てる力の全て以上の力で厄災の王に挑まんとしていた。

 ぼくは彼女をただ受け入れる。

 彼女の意識がぼくに憑依し、ぼくの存在と噛み合う。

 

 ぼくの体に融合しそこで一人になった。

 それは、ぼくは精霊であり人間である存在だ。

 赫く、黒く、美しく、醜い。

 その絶対ナル存在が曇天のクウから墜下らっかする。

 ざらついた蠢く厄災の王のど真ん中を貫いていく。

ぼくの、心臓!』

 手を伸ばし、打ち抜く。

 厄災の王の中核を撃ち抜いて、リナリアの心臓に手が届いた。

 それを吸収する。

 

「完全復活だね。リナリア」

「ああ、いい気分だぜ。いい気分がてら聞いてやるよ。始めたった時に言ったよな。お前の望みを言えって」

「望み?」

「そうさ。何かないか?」

「……わからない。ぼくはぼくの望みを見つけられていないんだ………、リナリアは、復活して何を望むの?」

「ああ、色々考えたんだが」

 リナリアの答えはなんとも気高く予想外にすごいものだった。

「普通に生きてみるよ」

 豪、と何かがぼくらを襲う。

「お父様め。死に損ないが」

 厄災の王がリナリアを掴む。

 地獄の底に彼女を引きづりこむきだ。

 リナリアの姿がぼくから離れていく。

「リナリア!」

「カイ!」

「リナリア!ぼくの望みを言うよ! また君に会いたい!」

「聞いたぜ! おい! カイ! お前、これからどう生きたいんだ!」

 リナリアの最後の叫び。

 それはぼく自身に答えの出せていない問題。けれど解答を考える時間はない。ぼくは咄嗟に叫んでいた。

「ぼくも! ぼくも普通に生きたい! このまま死んだまま生きてるなんて嫌だ!」

 ぼくはそう叫んでいた。傷むことも、痛むことも出来ず、空っぽのままで、このまま人生を続けたくない。それがぼくの願いであったことに気づいた。

 そうか。ぼくはこの過去を--メイの記憶を、振り切りたいんだ。

 ああ全く、ぼくはなんてろくでなしだ。

 リナリアはそんなぼくを笑った。今まで見たことない、穏やかで優しい微笑みだった。

 やがてリナリアは厄災の王にひきづり込まれ、地下深くに沈んでいく。

 ぼくは必死で手を伸ばしたが、次の瞬間。空を切ったぼくの手は地面に激突した。

 そこには地面しかなかった。

 ゴーンゴーン。と厳かな鐘の音が鳴った。

 異世界の門が顕れ、開かれたのだ。

 みんなが各々武器を捨て、その門へと駆け込んでいった。

 そうしてクラスメイトたちは、現実に帰還した。

 ぼくはそれを見届けて、

 それから。ずっとその場に立ち尽くしていた。

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