約束の丘
判家悠久
第1話 青森県三戸郡新郷村 キリストの墓
こんな御時勢も、やや流行病が収まったタイミングで、名古屋の大学生の俺日比野忍とルームメイト桃配暁は、行くなら今しかないだろうなと思惑に至った。そこは都市伝説スポットの青森県三戸郡新郷村、つまりキリストの墓に向けて、俺達は結城静香教授のワイフのホンダN-WGNを借りて、いざ青森に旅立った。
その気になれば半日で到着だが、都市伝説を巡る旅を存分に満喫したいので、5月麗なかな中、3泊4日の車中泊に果てに、町人と村人に道を聞きながら、青森県三戸郡新郷村のキリストの墓に辿り着いた。
見た通りの丘で、道なりに進んでは併設の資料館を超え、頂上の二つの白い柵に囲われた塚に辿り着いた。一つはまさかのキリストの墓、一つは彼の地で身代わりに処刑された弟イスキリの墓らしい。雰囲気は至って、聖地スポット的な雰囲気を持って、俺達は当たりだのグーパンチを3度交わした。
ただ、ここからが本番で、キリストの墓かどうか、確認しなくてはいけない。本当に、一つが主で、一つが推定弟であろうか。そうとは言え、何故同格に塚が置かれるか、ここで非常に気に掛かった。俺の推論はあのイスラエルの地から遥々渡ってきたとなると、それは信徒同士での掛け替えのないバディであると。暁としては、そもそも新世紀の頃に、この新郷村の村民が主が主である認識もする訳もなく、死亡時期やや近しだったら同じ塚を構えるだろうと。互いに、埋葬当時はキリスト教認識ほぼ無しであろうと、それはそうだろう。まあ結局は遥か新世紀の話なので何だかなに、どうしてもなった。
でも看板はキリストの墓なんだからの肯定に傾けつつ。そんなうだうだに、見るからに二人の年の差婚の男女が歩み寄って来た。二人は小澤皐月さん・小澤惟任さんと名乗り、地元名士の職員との事。
学生さん、まあ名古屋、別に今やキリストの墓は不思議番組に取り上げられて全国区だから驚かない。そもそもキリスト祭は来月6月頭だから何を調べてるの。単純にフライング系かなとの和やかムード。いや、この御時勢ですから人混みを避けて、じっくり見たいし浸りたいとは返した。まあ、いるよねと、皐月さんと惟任さんから仲良くクスリとされた。
暁がここぞのタイミングで、自らのスマートフォンを差し出して、記念写真撮ってくださいとおねだりをした。俺達は満面の笑みで立ち位置を構える。
「忍、暁、ちょっと近いって、前に出てよ」
「ああ大丈夫です、イエスの御寵愛は近い方が良いです」
「惟任さん、バッチリ頼みますからね、スマートフォンですから何枚でもokです。ついでに20秒動画も下さい」
「だからさ、もう後ろ柵だって、前に出て」
「いや大丈夫ですって、あっつ、」
俺は、後ろ向きに、柵に足が捕らわれて、豪快にキリストの墓の塚に背中を投げ出した。ダン、別に痛くは無い、むしろ都合どおりだ。ここで俺は、イタタの大振りを混ぜつつ、左懐から特注の黒革のポケットサイズの手帳を捲り、ページのそこに表記されていたのは【約束の丘】だった。
視界は急激に夕日に染まる、そう分かるゴルゴダの丘だ。両手両足に鈍い違和感が来た。次いで来たのは両脇腹の疼痛だ、確かにロンギヌスの槍で刺されたかだが内臓に達していない、不思議な感覚だ。それは確かに超人として正気さで、万物のアカシックレコードに飛び込んでも、俺の意識は続いた。主、イエス・キリストとは、やはり達観した存在だったかだ。ただ、尋常では無い寒さがやって来た。やはり失血か、人間として俺の生命のトリガーが働いてか、現視の視界にスライドし徐々に狭まった。
耳はやたら遠いが、不意に囲んでいる柵全ての弾け飛ぶ音が聞こえた。暁のリミッターは毎度堪え性がないのか、堰を切った時のサイコキネシスは半端では無い。
そこに、長髪の惟任さんの差し出した両手が見えた。その手の甲にはえげつない程に大きな釘の聖痕が見えた。そう、どうしても訳ありか。俺凍えながら、暗い視界の中にゆっくり沈み、そしてことりと全てが落ちた。
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