第916話 あなたには分かろうはずもない!!

「あのまま華々しく、戦いの中で散ることができていれば……か、ふむ……お前はあの程度で本当に満足なのか?」

「……な、何をおっしゃる! 私は全てを出しきったのですよ!? それ以上など、あるわけがないでしょう!!」

「まあ、確かにあれがお前の全てではあったのだろう……ただし、それは『現時点』でのな」

「現時点での……」

「うむ……先ほど戦ったときにも言ったが、お前から繰り出される一打一打から努力の跡を感じることができた……そうした鍛錬によって実力を伸ばすという意識のあるお前になら分かるだろう? まだまだ伸びしろがあるってことをな!」

「まだまだ伸びしろが……ある……」

「ああ、それにお前……第4小隊の皆さんを煽るだけ煽っておきながら、いざ戦闘となると重傷こそあっても致命傷を与えるような戦い方だけはしなかった……それはどうしてだ?」

「そ、それは……」

「それは?」

「……フゥ~ッ……ええ、おそらくあなたのご想像のとおりですよ……わざと恨みを抱かせ、そしてその気持ちを原動力として腕を磨きながら私を追ってもらい、いつか探し当てて再戦を挑んでもらおうと思っていました……まあ、私に与えられた役からすれば、そういったやり方ぐらいでしか戦いの機会を残すことができそうもありませんでしたからね……」


 やっぱりね……それについては少々不器用なことをしているようにも感じなくはないが、それはともかくとして……


「思ったとおりだ……やはりお前も、相手の伸びしろに期待していたというわけだ! それなら、自分自身の伸びしろに期待したっておかしくはなかろう!?」

「自分自身の伸びしろに期待……」

「そうとも! とはいえ、生まれ持っての保有魔力量の多さなど魔法的な素養の高さに慢心して腕を磨かないような連中だと、さすがに俺も伸びしろがあると断言できないが……その辺のところ、お前は違うだろう!?」

「……おとなしく聞いていれば…………利いたふうな口をきいてくれますね……あなたに……あなたに何が分かるのです!? 魔族ですらないのに、そんな途轍もない保有魔力量に恵まれたあなたに!!」

「保有魔力量に恵まれた……?」


 おっと、この男の心の中で一番繊細な部分に触れてしまったようだ……

 もしかしたら、マヌケ族の中で保有魔力量の多い奴に舐めた態度をとられたことがあって、そんな記憶が呼び覚まされてしまったかな?

 まあね、人間族でだって貴族の爵位なんかを見ても分かるように、保有魔力量の多さで序列が決まっているといえるようなところがあるからねぇ……

 それが魔法により強いアイデンティティーを持っているだろう魔族だと、もっと顕著に現れてきてもおかしくはあるまい……

 そしてこの男は、下っ端扱いを受けていることからも分かるとおり、魔族の中においては保有魔力量が少ないのだろう……


「保有魔力量の多さこそが何より優先される私の部族において、その他の要素など一顧だにされない! たとえ武技を磨き、実力で上回ったとしてもね! それでも……それでも、いつか認められるときがくると信じて! 周りから嘲笑されようとも技を磨き続けた私の気持ちなど、初めから保有魔力量に恵まれていたあなたには分かろうはずもない!!」


 役がどうのこうのと言ったり、戦いの中で散りたいとか言ってみたり、なんとなくこの男には投げやりなところがあるなぁと思っていたが、なるほどね……

 周囲から努力を一切認められず……そうして結果的に回ってきたのは、やりたくもない潜入工作員という役割だったとなれば……そりゃあ、精神的にくるものがあるのかもしれない……

 しかも、保有魔力量が多いだけで戦闘能力的には下の奴が、上役として半笑いで命令を下してくる姿なんかも想像できちゃうしさ……

 とはいえ、それなりに仲良し家族だったという自負のある前世の俺成分はともかくとして、原作アレス君だって親父殿という肉親に何一つ認められることもなく、これまで生きてきてるんだけどねぇ?

 ただ、そんなことを説いても、この男には伝わらんかもしれんが……


「……ふむ……まあ、そうだな……俺には、本当の意味でお前の気持ちを理解してやることは無理かもしれんな……じゃあ、それならそれで、お前が第4小隊の皆さんにやろうしたように、俺に対する恨みの気持ちを糧として腕を磨き、再度戦いを挑んで来ればいいんじゃないか? 特に忙しくなければ、いつでも受け付けてやるぞ?」

「……ッ!?」

「それか……お前を見下した同族の連中をボコボコにしに行くのでもいいかもしれないな、いくらでも手伝ってやるぞ? まあ、一度や二度ボコボコにしたぐらいじゃ納得できなくても、納得したくなるぐらい殴ってやれば、保有魔力量の多さだけではどうにもならんこともあると認めるんじゃないか?」

「な、なんてことを! 私にだって、同族への親愛の情というものがあるのです! そんなことできるわけがないでしょう!! いや、それ以前に! そうやって私から情報を引き出そうったってそうはいきませんよ!!」

「お前の身体には、自滅魔法が施されているから……か?」

「……なんだ、知っているじゃないですか……ええ、そうですよ……これがある限り、仮に私がどう心変わりしようと、同族を裏切るようなマネはできないということです、フフッ……残念でしたね?」

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