第31話:破滅の足音を鳴らすのは




「何ですかコレは」

 レイトス大公は、共同事業の帳簿を見て呆れた。

 ボトン家はよほどシャイクス家を舐め切っていたのか、大した工夫もされずにそのままの金額が書かれていた。


「シャイクス家の商品の仕入れ代がこれで、売上げがこれ。加工代が引かれて、純利益の……1割しか渡してない!?」

 ちなみに国への納税書には、5割渡していると書かれていた。


贋物ニセモノシャイクスですか」

 部下の言葉に、レイトスの眉間に皺が寄る。

「贋物シャイクス?」

「あぁ、大公は知りませんよね。ボトンブランドが黒い線を入れるのは、シャイクス家がよく似てる劣化品を作ったからだそうですよ」



 部下の男は、話のネタで軽口を利いただけだったのだが、レイトス大公の視線の冷たさに、思わず口をつぐむ。

 しかし「話を続けろ」と無言で促され、青くなりながら話を続けた。


「パッと見区別出来ない程似てるけど、並べると明らかに違う。まぁ、値段も違うので、ボトンブランドを買えない庶民が主に買います」

「ほぅ」

「多分加工代ってのは、ボトンブランドじゃないってのを解ってて買う人に、希望すれば黒い線を入れてくれるからじゃないですか?ボトン家から許可は出てるらしいので」


「その許可代として、ボトン家が純利益の9割を取ると?しかも加工代が高過ぎですね。これはボトンブランドの線入れ加工代も入ってます。でもボトンブランドの売上げは、全てボトン家の物」

 レイトス大公が無言になり、何かを考え出す。



「陶器も磁器も、シャイクス家が真似をする利点は有りません。贋物だと馬鹿にされ、売上げの9割を取られ、加工代が余計に掛かるんですよ?あなたなら態々わざわざ贋物作りますか?」

「い、いえ。ですが贋物だから売れるという利点も。ボトンブランドの店で売ってますし」


「私なら、贋物10個売るより、自社ブランド1個売ります」

 確かに、それなら売上げ全てが自分の物だから、その方が余程良いかと部下も思い直した。


「しかもシャイクス家は、売上げの9割取られている事を知りませんね。ボトン家からの納金書には、売上げ金額しか書類に記入されてないので」

「え?」

「おそらく王都で売られてる自社製品の単価を基にして、大体の数を割り出して帳簿に書いてます。割り切れない数字を手数料として記入してますね」

 レイトス大公は、シャイクス家とボトン家の帳簿を並べた。




「……って、感じですね」

 レイトス大公は、オベロニスの前に二家の帳簿と納品書と納金書を並べる。

「それからこれが、ボトンブランドとシャイクス家の食器です。敢えて線は入れずに買って来ました」

 更に箱から陶磁器を出して、テーブルに並べる。


「店員には何度も確認されましたよ、本当に線は要らないのかって」

 レイトス大公の言葉を聞いているのか、いないのか。

 オベロニスは無言でティーカップを手に取った。


「よく似ているが、これはシャイクス家の物では無いな」

 を持ちながら、オベロニスは断言する。

 ここ最近で持ち慣れたカップとは、見た目は似ているが明らかに違った。


「やはりそうですよね。私もシャイクス家で出されたカップとは違うと感じたんですよ。でも1回しか使ってないし、自信が無くてね」

 ボトンブランドのカップを持ちながら、レイトス大公が爽やかに笑った。



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