第21話:井の中の蛙
「こんにちは。初めまして、私、今回のドレスを担当させていただ……あら?取り込み中かしら」
エントランスに明るい声が響いた。
本来のお客様であり、オベロニスに伝えられていたドレスデザイナーであろう。
女性であるが、男性の乗馬服のような動きやすい服装をしている。
「ドレス?アナタが?」
ボトン伯爵夫人は、あからさまに馬鹿にした態度でデザイナーを見る。
上から下まで見た後、鼻で笑った。
「どこの田舎貴族に頼まれたのかしらね。アナタなんて、今まで行った店でも見た事ないし、私なら絶対に頼まないわ」
扇で口元を隠しながら、高飛車に言い放つ。
いかに自分が格上の店にしか行かないか、を示したつもりの台詞だった。
「ええ。私も見た事無いですね。私、王宮デザイナーなので、それなりの方のドレスしか作りませんし」
キョトンとした顔で、女性が爆弾を落とした。
「王宮……デザイナー?」
ボトン家の全員の目が見開かれた。
「はい。今回は王妃陛下のドレスより優先しろって陛下に言われて来ました。あ、お金を出すのはシセアス公爵ですけどね」
これはタイテーニアも知らなかったので、さすがに焦って「え?何それ」と呟きオロオロしている。
タイターニに至っては、気絶寸前だ。
そんな周りの様子を気にせず、王宮デザイナーは続ける。
「大体貴女こそ、そのドレスに扇って10年以上前に
ボトン伯爵夫人の顔が朱に染まる。
赤紙が貼られている服は着られない為、共同事業が始まる前に買ったドレスしか着る事が出来なかったのだ。
「年齢的にも辛く無いですか~?年増のデコルテも背中も、需要なんて殆ど無いですよ~?」
若い頃のドレスのデザインである。
確かに今の伯爵夫人の年齢で着るには露出が多く、痛々しかった。
「あなた!ニーズ!帰るわよ!」
顔を真っ赤にして目に涙を浮かべ、折れそうなほど扇を握り締めたボトン伯爵夫人が叫んだ。
「いや、お前、まだ何も話して無いだろ」
ボトン伯爵は妻を引き止めようとするが、ズンズンと歩く夫人は止まらない。
「父さん。シセアス公爵って、俺の脅しの婚約破棄を本当にしたヤツだ。一度帰って作戦を練り直そう」
ニーズまでも帰る事に賛成したので、ボトン伯爵は渋々扉へ向かって歩き出した。
その後、シャイクス家の紅茶とお菓子を堪能してから、王宮デザイナーは仕事に取り掛かった。
「あら、野暮ったい服で判り辛いけど、貴女、なかなかの迫力ボディじゃない」
「迫力ボディ?」
初めての言葉に、タイテーニアが首を傾げる。
「出るとこ出て、引っ込むとこ引っ込んでる、魅惑的な体型って事よ」
「それ、褒めてますか?」
「当たり前じゃない!一昔前はスレンダーが持て
タイテーニアは、殆ど社交界に出ていないので、流行りに
「それに、やっぱ男はおっぱい好きが多いからね!あんな顔してるけど、公爵もムッツリだよ」
多分ね、と言う最後の言葉は、顔を真っ赤にして照れてるタイテーニアの耳には届かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます