第3話:高級料理店
「なぜ彼女は何も食べていないのだ?」
突然、タイテーニア達の居るテーブルの横で男性が立ち止まり、案内していた店員へと問い掛けた。
タイテーニアとニーズ、そして子爵令嬢の視線が男性へと向く。
あっ!と思ったのはタイテーニアで、ニーズは不機嫌さを隠さずに睨み、子爵令嬢は
立ち止まった男性の視線はテーブルの上。
ニーズと恋人の前には、豪華なフルコースがあり、タイテーニアの前には無料の水が1杯だけ。
男性に問われた店員は、戸惑いながらも素直に答える。
「こちらのお客様の指示で、何も出すなと」
こちら、と言いながら、店員はニーズを手で示す。
「店に連れて来て、何も出すなと?」
男性の地を這うような声に、全員の動きが止まる。
「理由は何だ。使用人には見えないが?」
男性に問われたニーズは、一瞬目を泳がせたが、新しい恋人にいい格好をしたかったのだろう、偉そうに話しだした。
「この女は俺の婚約者だ。今日は新しい恋人を紹介する為に呼んだだけで、自分の立場を解らせる為に何も与えないんだ!」
一気に話し、フフンと偉そうに胸を張るニーズ。
しかしニーズの予想とは違い、子爵令嬢は席を立ち男性に近寄った。
「私、別に恋人じゃありません!今日はお食事に誘われて……身分が上の方だから断れなかっただけなのです」
媚を売る子爵令嬢の視線に、男性はピクリと片眉をあげた。
あらら、見事な
タイテーニアの視界には、子爵令嬢から男性へ向かい赤いモヤが流れて行くのが見えていた。
この赤いモヤは、先程まではニーズに向かっていた。
ただしその量は10倍は違うが。
男性の顔色が僅かに悪くなる。
どうしようか迷っているタイテーニアの目の前に、白く美しい、しかししっかりとした男性の手が差し出された。
「こんなくだらない席に居る事は無い」
無表情だが端正な男性の顔を、タイテーニアは見上げた。
タイテーニアは混乱していた。
その婚約者は、男性に存在を馬鹿にされ、恋人だった筈の子爵令嬢にまで関係を否定され、顔を真っ赤にしている。
そんな状況を見て、店員は固まっていた。
ここは個室ではなく、どちらかというと通路脇の
この男性を案内する予定なのは、少なくとも個室。更に上のVIPルームの可能性もある。
どちらに味方した方が得なのか、タイテーニアでもすぐに解った。
「ボトン様、本日はありがとうございました。お代は結構です」
店員が
いや、どちらかというと慇懃無礼なのかもしれない。
なぜなら、ニーズ達はまだ食事を終わっていないからだ。
ニーズは、お店から食事中なのにも
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