第312話世界宗教学の難解な講義 田中朱里の成長

今日の午前中の講義は、「世界宗教学」という、真面目で難解なもの。

純子、祐、田中朱里は、いつもの並びで教室に座る。

純子は、最初から眠そうな顔。(最近は、字を見ると、教科書を見ると眠くなると自己申告)

祐は、真面目に講義資料を読んでいる。(世界の宗教の比較に注目している)

田中朱里も、純子と似たようなもの。(眠そうに、少し祐に身体を預け気味:意図的であるが)


壮年の教授が、教室に入って来た。

(拍手も出るので、有名な教授)

(十冊以上の本、数冊はベストセラー、版を重ねている)(NHKの教養番組に、出演することが多い)

(祐が姿勢を正すと、純子、田中朱里も、懸命に目を開けた)


講義内容を要約すれば、以下のようなもの。

① 自らの神を信じない、他の民族は、滅ぼさなければならないと、聖典に記した宗教もある。(それこそが、その宗教を信じる者の正義であり、義務であると書いてある)

② それを考えれば、「世界の宗教者が、日本のどこかの山とか会場に集まって、「世界平和を祈るイベント」があるけれど、全く論理的ではない。

③ 世界最大の宗教であるキリスト教でも、異教徒、異端への虐殺は数多く行われて来た歴史があり、謝罪と賠償が十分ではない。(特に旧約では、異教徒への処罰と称し、虐殺は正当化されている)

④ 様々、考えて、世界は宗教による平和は、あり得ない。

⑤ 特に一神教が世界のほとんどであるので、他者排除のための動きは、必然的に起こり続ける。

⑥ 「人間が神になる、仏になる」そんな発想は、日本だけ。

⑦ 「故人の罪や故人に対する恨みは、永遠」が、世界の人々の主流の考え方。


講義を聞き終えて、純子は暗い顔。

「奈良で育って、まあ、仏さんたちに囲まれて、平和やったけど」

「ほんま、お地蔵さんが懐かしい」

祐は、クスッと笑う。

「地獄に仏?」

田中朱里は、落胆している。

「熱田神宮の御神霊なんて、レベルが違う話みたい」


祐は、そんな二人を慰める。

「先生は理論を言っただけ、間違いでないと思うけどね」

「でも、日本人には日本人の考えもある」

「気にし過ぎる理由はない」


少し間があった。

「イランからヨーロッパにかけて、一神教系で」

「インド、中国から日本までは多神教」

「人口比率で言えば、中国とインド、日本まで加えれば世界の過半数」

「それを考えれば、先生の意見も、完璧ではない」

「何でもかんでも、危機を煽るような脅しは、好きでない」


純子は、途端に「ほわっと」した顏になった。

「祐君がいて、よかった、ほんまに、うちのお地蔵さんや」

田中朱里は笑顔。

「観音様の知恵にも、思えます」


祐は、その観音様で、ひらめいた。

「鎌倉にも長谷寺があって、観音様がある」

「湘南の海がよく見えて」


純子の顏が輝いた。

「テレビで見たよ、喫茶コーナーがあって」

田中朱里も、知っているらしい。

「抹茶あんみつが美味しいとか」


祐も笑顔。(珍しくスラスラと話す)

「アジサイの時期に行こうと思っていた」

「北鎌倉で降りて、円覚寺、明月院、建長寺、小町通り」

「長谷の鎌倉大仏もいいな」

「江ノ島の弁財天に参拝して、磯料理」


純子

「全員で行こうよ、面白そう」

田中朱里は、真由美に連絡、即OK返信を受けている。


祐は、少し考えた。

「愛奈は無理として・・・春奈さんをどうする?」

純子は、苦笑い。

「そう、考えるから苦手になるの」

田中朱里は、積極的。

(そのまま、春奈に連絡、OK返信をゲットしている)

(純子は、思いがけない田中朱里の成長に、押されている)


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