第265話真由美は心から反省

私、真由美は心から反省している。

森田哲夫先生の絶景写真に魅せられて(魅せられ過ぎて)(純子さんも、夢中になっていたし)、祐君が写真選びの作業をしていることから、意識が離れていたことを。


古今和歌集は全1,100首くらい。

それの全てに写真をつけるのが前提。


ここ森田哲夫東京事務所の写真在庫(祐君の説明では京都だけで数十万、日本全区では数百万あるとか)から、古今和歌集のそれぞれの歌の「こころ」に合う写真を見つけ出す。

それだけでも、神経を張り詰め続けて、しかも膨大な時間を要する作業。

その上、適当な写真がなければ、時期を見て、京都に行って撮影をしなければならない、そんなプレッシャーもある。


森田哲夫東京事務所に入って、アシスタントの柏木さんの説明を受けて絶景写真を見て、すごい!としか言えない撮影スタジオを見せてもらって約30分。


純子さんが「あっ!」と声をあげた。

「祐君は?」

私も懸命に祐君を探す。(でも、どこにもいない)


柏木さんが、苦笑い。

「二人には、見させておいてって、祐君が言ったの」

「祐君は、作業中」

「あの子、気が利くし、やさしいの」


私は、純子さんと顔を見合わせた。

(純子さんも、非を悟ったようで、辛そうな顔)


・・・で・・・祐君のいる作業室に案内してもらった。


祐君は、懸命に作業をしていた。

古今の歌の番号に応じて、写真ファイルの名前を書き込んでいる(それも、一首ごとに、数枚の写真)


純子さんが祐君に謝った。

「ごめん・・・一人でやらせて・・・」

私も素直に謝る。

「本当に、ごめん、祐君・・・大変だったよね」


祐君は、PCの画面と古今の歌を見比べるだけ。

(私たちを見ない・・・そんな余裕がないのかも)


柏木さんが、気を利かせてくれた。

「ねえ、祐君、紅茶淹れたの」

「目に効果があるブルーベリーの」


祐君は、目をパチパチさせながら、ようやくPCから視線を私たちの方に向けた。

(心臓に悪い!祐君、怒らないで、ごめんなさい)


意外な、でも、祐君らしい言葉だった。

「親父の写真を見てくれてありがとう」

「親父の若い頃の写真が多い」

「僕の撮った写真も何枚かあるよ」


・・・やさしくされるのも、あてにされていない感じ。

でも、それって、祐君の負担が増すばかり。(壊したくないよ、祐君!でも私たちが悪い)


ごめんなさい!って抱きついたところで、祐君の作業には何の効果もないのが、実に情けない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る