第238話春奈の二人きり作戦①

私、風岡春奈は、毎日が辛い。

その原因は祐君に「私が怖い」とはっきり言われたこと。

私は、そんな悪気は全くない。

でも、いつも近くにいることができる純子や真由美に、嫉妬。

ついつい、祐君にキツイ言葉や顔をしてしまった。

(そもそも、お姉さん気分で祐君に接していた)

(でも、祐君の才能を知り、欲しくなった)

(感情が昂れば、押し倒したくなることもある・・・女の武器?何でもいい)


祐君のピアノにも、惚れた。(毎日でも聴きたい)

「でもなあ・・・」

祐君も辛いと思う。

器用なタイプなので、何でも人並み以上にこなすし、また真面目だから努力、根を詰めてしまう・・・で、体調を崩す。

その意味では、純子と真由美が隣に住んでいることは、一定の安心。


でも、本音は、祐君のお世話は、「私が」したい。

「怖い」なんて言わせないで、毎日笑顔で・・・「一緒に」暮らしたい。

夜は・・・愛し合っても・・・いや、愛し合いたい。

祐君の全てを・・・私も思いっきり、祐君を抱きたい(祐君でなければ、嫌)


「今のままでは、3番手?田中朱里って子は?・・・もしかして私は圏外?」

そう思うと、ますます辛いので、眠れなくなる。

かといって、「引かれている」ので、電話もしづらい。


・・・で・・・そんな鬱々とした生活を続けていて、平井先生に気づかれた。


「祐君で悩んでいるの?」

「目の下にクマが・・・祐君よね」

「あの子は魅力あるもの、才能も性格も」


否定できないので、下を向いていたら、背中を撫でられた。(ホロッとした)

「春奈さん、一度、祐君と二人きりでお話してみたら?」

「そうね・・・届けて欲しいものがあるの」

「あ・・・私から連絡しておきます、二人きりでチェックしてと」


平井先生から渡されたのは、古今和歌集春歌上の30首までの解説(平井先生の原稿)。

解説については、平井先生と訳者の祐君が担当するので、納得できる話。

電子メールをあえて使わないのが、平井先生の配慮と思った。


祐君への「お届け」は、翌日の午後4時。

チャイムを押すのも、胸がはちきれそう。

インタフォンで「あ・・・春奈です」も、噛んだ。

(ドアを開ける祐君を見るのが、待ちどおしいし・・・震えた)


「お待ちしていました」

祐君は、頬をポッと赤らめらた笑顔。(うわ!やばい!そそる!)


「入っていい?」(二人きり・・・男の子の・・・しかも祐君のお部屋だ)


「はい、春奈さん、紅茶淹れます」(やさしい声・・・そんなのいいから、むしゃぶりつきたい!)(この時点で、半端ないムズムズ感、ちょっと危険)


テーブルの上に平井先生の原稿を置いて、少し待つ。


「わざわざ、ありがとうございます」

「春奈さんと二人で点検ですから、急ぐってことですよね」(平井先生の意図は別だけど、うん、と頷く)


「ねえ、祐君、元気だった?」(点検とは関係ないけど、言っちゃった)


「はい、まあ・・・でも、春奈さん、今日は怒っていないのでうれしいです」


「怒っていないよ、いつも」(私は、正面から祐君を見るのが恥ずかしい)

「ねえ、隣でもいい?目が良くないの」(うそ・・・密着、接触したいだけ)


「あ・・・はい・・・どうぞ」(うわ・・・そのどうぞが・・・おいで、に聞こえた、押し倒したいよーー)


ペタンと、お尻を押し付けるように、祐君の隣に座った。(耳まで赤くなった)


祐君は、赤ペンを持って冷静。

「仕事始めましょう」(私は、祐君をムギュ―ってしたいけど?)

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