第220話オーケストラ顧問尾高は逆に祐を責めるが
「そもそも、君が」
オーケストラ顧問尾高は、祐を再び睨みつけた。
「君が、最初から話を聞いていれば、こんなことにならなかったはずだ」
「吉野の暴行は、確かに問題がある」
「しかし、その問題の発端は、君にある」
「君も、我々に謝罪しろ」
祐は、信じられない、という顔。
「そう言われましても、とにかく最初から、高圧的で」
「ジュリアさんを紹介しろとか」
「紹介したら、オーケストラに入れてあげる、とか」
「そんなこと、何も望んだわけではないので」
純子と朱里も、祐を弁護する。
純子
「オーケストラの人たち、最初から喧嘩腰でしたし」
「何で怒られる必要があるのか、なにもわかりません」
朱里
「祐君が、そんなオーケストラの人の話を聞くとか聞かないとか、祐君の自由では?」
マスターも、腹が立って来たらしい。
オーケストラ顧問尾高を睨みつけた。
「おい、尾高、俺のこと知っているだろ?」
それを聞いた尾高の顔がこわばった。
「あなたは・・・元ニューヨーク響の山本さん?」
マスターの顔は厳しい。
「お前が、まず謝るのは、祐君と俺だ」
「祐君は、怒られる必要もないのに怒られ、いいがかりをつけられ」
「俺は店の椅子とテーブルを蹴飛ばされ、足を踏まれ、おまけに殴られて怪我をした」
「それなのにお前は、自分が振るオケが廃部になる腹いせで、何の非もない祐君を責めた!」
少し間をおいた。
「お前は。何にも成長がない」
「あまりの一人よがりの指揮で、読響の練習指揮者をクビになり」
「その次は、不倫して、札フィルもクビ」
「今度は、言いがかりをつけられた祐君に、逆に謝罪しろと?」
「どうせ、祐君に謝罪させて、自己保身を図ったんだろ?」
「いつものお前の手、しかも、苦し紛れで、いつも失敗する」
「いいか、お前の言葉も、全てビデオでとっている」
「それに、お客さんも見ている」
「あ・・・あそこに、敏腕の弁護士さんもいるよ、俺より怖いよ」
オーケストラ顧問尾高と大学総務の鈴木が振り向くと、その「弁護士」が歩いて来た。
祐とマスターの前に立って、名刺を出す。
「弁護士の寺尾です」
「全部見ていました」
「さっきマスターが言った通り、あなた方の対応は酷い」
「まず暴行を働いた学生のことで、動転して」
「何の非もない祐君に謝罪を迫る?」
「普通は、祐君にストーカー行為まがいのことをして、高圧的な態度をした問題」
「オーケストラ部員のこの店での、器物損壊まがいの行為、マスターへの暴行」
「それについて、謝罪するのが、大人の態度では?」
「それとも、そんなことも知らない大学なの?」
そこまで言って、祐にも名刺を出す。
「寺尾です、哲夫さんの友人、飲み仲間、ああ、教育審議会の同じメンバー」
「だから平井先生とも同じ会」
「君が謝る必要は全くない」
「総務の人も、オーケストラの人も、事件をあいまいにして、自己保身をしたいだけ」
そんな話をしていると万葉集の教授佐々木が店に入って来た。
そして、マスターに頭を下げる。
「申し訳ありません、本学のものが、ご迷惑をおかけしました」
マスターが頷くと、大学総務部鈴木とオーケストラ顧問尾高に厳しい顔と言葉。
「祐君とオーケストラ部員のやり取りを見ている学生が多くて」
「全員が、あれはオーケストラ部員が酷いと言っています、録画もあって私も確認しました」
祐が佐々木の前に出た。
「あの・・・もう、よしましょう」
少し間を置いた。
「大学に通うのが嫌になりました」
胃も苦しそうな雰囲気、ジュリアが祐を支えている。
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