第219話大学オーケストラ部ホルン吉野の暴行と始末

まず、ホルンを持った男子学生が椅子やテーブルを蹴飛ばしながら、演奏を続けるジュリアと祐に向かって歩き出す。


「ちょっとやめて!」

そのホルンの男子学生の袖を引いて止めたのは、ヴァイオリンの杉田香織。


「何だよ!」

ホルン男子学生は、止められた理由がわからない。


杉田香織は、ホルン男子の足を軽く蹴った。

「ジュリアさんの演奏、祐君もいい感じ」

「聴きたいの!この馬鹿!」


もう一人の男子学生菅野も、ホルン男子に、諭す。

「確かに、いい演奏、吉野はわからないの?」

(どうやら、ホルン学生は、吉野というらしい)


吉野は、しぶしぶと、椅子に座るが、まだ気持ちがおさまらない。

マスターが注文を取りに来ても、「うるせえ!このジジイ!」と、マスターの足を踏みつける。(その様子を見ながら、奥様は誰かに電話をしている)


繊細優美な二楽章から、流麗な三楽章に入った。

杉田香織は、胸を抑えている。

「すごい・・・ジュリアさんも・・・それから祐君って何物?」

「あのニュアンスが・・・深くて、きれいで・・・しみる」

菅野は、目が真剣。

「これ・・・そのままステージに立てる・・・」

「うわ・・・いいなあ・・・」

杉田香織は、途中からジュリアンよりは祐に夢中。

「可愛いな・・・あの子・・・」

「さっきは文句言ったから憎らしかったけど」

「うーん・・・伴奏して欲しい」

菅野も頷く。

「誘ってみるかな、今度は頭を下げないと」


ただ、ホルンの吉野は、まだ気に入らないらしい。

「俺は、ブラバン育ちで、そんなのわかんねえ」

「とにかく、あれほどコケにされたんだ」

「一発はかますよ!なめやがって!あの小僧」


「ブラームス 雨の歌」が終わった。

ジュリアンが祐を手招き、大きな拍手を受けている時だった。

ホルンの吉野が、顔を真っ赤にして、立ちあがり、小走りに、祐に向かった。


「おい!祐!この小僧!」

「人を馬鹿にしやがって!」


「おい!やめろ!」

「何するの!」

菅野と杉田香織の声も、耳に入らない。


拳を振り上げ、祐に迫った時だった。

マスターが、祐の前に立った。

「おい!何をする!」


しかし、ホルン吉野は止まらない。

「うるせえ!このじじい!どけ!」と激高。

そのまま、マスターを殴ってしまった。


殴られたマスターは、口の中を切り、少し血を流しながら、厳しい顔。

「お前・・・自分のやったこと、わかっているのか?」

「全て、録画してあるぞ」

「それから、すぐに警察と大学から来る」

「いいか、俺は被害届を出すぞ」

「許す理由が何もない、椅子とテーブルは蹴られ、その上に置いてあったものが散乱」

「何も悪いことをお前さんにしたつもりはない、それなのに足をきつく踏まれ、足からも出血だ、そのうえ、殴られたんだ、客の前で」


マスターの言葉が終わるか終わらないかの時だった。

警察官が入って来た。

マスターと吉野に聴取、動画を確認。

そして、吉野は暴行容疑で逮捕されてしまった。


少しして、大学関係者が二人(総務部鈴木と、オーケストラ顧問尾高)が入って来た。

総務部鈴木は苦い顔。

「吉野は退学処分相当だよ」


そして、真っ青になるオーケストラ顧問尾高に、厳しい顔で断言した。

「ここの動画は評判が高いから、見ている人も多い」

「その前で起こった暴行事件です」

「学長と相談しますが、オーケストラは無期限活動停止、あるいは廃部です」


オーケストラ顧問尾高は、納得できないのか、祐を睨みつけている。


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