第198話田中朱里は、メロメロになる。

母愛子と喧嘩して、千歳烏山に向かったのは、祐君と純子さんがいるから。

(ほかに何も考えられなかった)


でも、涙でグジュグジュの声を祐君に聞かせたくはない。

純子さんの、本当に大らかな、何でも聴いてくれるような、やさしい顔が浮かんだから、電話した。

祐君の声が聞こえたのは、驚いた。

もう、駅に向かったと聞いて、胸が躍った。


祐君の部屋で、いろいろ話をして、胸がスッキリした。


真由美さんの切れのいい言葉は、助かった。

「お兄さんがいるから、跡取りの問題はない」(名古屋では、跡取り第一主義、娘はお飾りだから)


祐君の言葉もズンと重かった。

「朱里さんの、一度だけの人生」

「他人に決めてもらうのか、それとも自分で決めるのかだよね」

(名古屋の狭い世界にしか生きていない、生きて来なかった連中に、私の一度だけの人生を決めさせたくない)(そう思い切ったら、世界がパッと明るくなった)


それと、祐君の笑顔は・・・もう・・・身体の奥が熱くなった。

(身体の奥から、熱いものがあふれて来た)

「ここに集まったのも、何かの縁」

「どうのこうのできない場合もあるけれど、話くらいは聞きます」


もう、この時点で、祐君にむしゃぶりつきたかった。

(でも、さすがに、純子さんと真由美さんの目もある・・・無理だ)


「親にも、おばあ様にも負けません」

「もっと自分を磨いて、田中朱里として生きます」は、本音そのもの。


純子さんが、握手の手を差し出してくれたので、握った。

途端に、今までずっと、我慢して来た感情も、ストレスも爆発した。


純子さんの胸に飛び込んだ。(ふっくらお胸だ、いい感じ・・・)

純子さんの胸の中で泣きながら思った。

「純子さんは、女神様だ」

「この人、好き」(最近話題の、そういう関係ではない)


ようやく、純子さんの胸から顔を話すと、祐君。

「あの・・・これから、カレーを作るの」

「ルーは、新宿中村屋を基本に、それを少し辛めにします」

「差し支えなかったら、一緒に」


真由美さんも笑顔。

「祐君に完食させたいので、監視して欲しい」


純子さんは、もうキッチンに立っている。


祐君が言葉を追加した。

「完食は・・・します」(そこで詰まる?)

「その後、古今を読むけれど、もし興味なかったら、タクシーで送ります」


私はドギマギした。

「いてもいいの?」


祐君は、恥ずかしそうな顔。

「感想聞かせてもらえれば・・・程度です」


「はい!喜んで!」

私、朱里は、本当に幸せな部屋にいる、と思った。

(できれば、千歳烏山に引っ越したい、とまで思っている)


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