第182話祐は古今和歌集を全て訳し終えていた。

「お待たせしました、祐です」

祐は、いつもの静かな声。


風岡春奈は、いつもより、早口、キーも高い。

「それでね、今から祐君の部屋に行きたい」


「ああ・・・かまいませんが・・・」

祐は、純子と真由美を見る。

二人とも頷くので、ホッとする。


風岡春奈の声が少し小さくなった。

「彼女たちは、いるの?」


祐は、素直に返事。

「はい、打ち合わせをしていました」


風岡春奈の声から「気」が抜けた。

「え・・・そう・・・10分ぐらいで着く」


祐は、丁寧に返す。

「お待ちしております」


その話の通り、風岡春奈は、約10分後に祐にアパートに到着。

祐がドアを開けると、笑顔で入って来て、ソファに座る。

お茶は、祐が淹れた。

風岡春奈は、そのお茶を一口飲んで、用件を言い始めた。

「うん、美味しい淹れ方、さすが茶処育ち」

「でね、平井先生からのお話」

「古今和歌集の現代語訳の件」

「次のテーマは、第一巻、春上の69首の訳と注釈、解説などだよ」


純子と真由美の顔に緊張が走るけれど、祐は落ち着いている。

「僕は、訳だけですよね」


風岡春奈

「うん、私が注釈で平井先生が解説」

「純子さんと真由美さんは、校正、添削かな」


祐は、ソファから立ちあがり、PCをテーブルの上に置く。

「実は、高校生の時に、訳したのがあって」

「一部はブログに乗せたものもあります」


風岡春奈は、そのPC画面を見て、うれしそうな顔。

「うん、このブログは、好き」

「源氏も枕も新古今も書くから、古今は一部だけなの?」


祐は、少し笑う。

「そうですね、受験が推薦で早く決まったので、あれこれと」

「古今だけにすると、煮詰まるかなあと」


純子も、いつの間にか、そのブログを知ったようだ。(おそらく恵美が教えた)

「素人の私ですが、このブログのまま、出版されたら買います」

「すごくきれいな文でわかりやすい」


真由美も、純子と同じように、祐のブログを知っていた。

「うん、私の大学の友人でも、ファンが多いです」

「祐君の文と・・・時々の写真が絶妙で」


祐は、顔を赤くして、照れる。

「マジに恥ずかしい・・・目の前で言わないでください」

それでも、話を深くした。

「実は・・・古今和歌集は、暇に任せて、全部訳してあります」

「もちろん、自分自身、直したい部分もあるけれど」

「全部で千百首くらい、なので」


風岡春奈は、にっこり。

「そんなことだろうと思った」

「このPCにあるの?」


祐は頷き、そのファイルを開く。

確かに、全20巻に分けて、古今和歌集が保存されている。


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