第180話佐々木先生のお願いに菊池真由美も参加

私、純子は祐君がすごく心配になった。

何でもない表情をしてはいるけれど、間違いなく、ものすごい重圧を受けていることは、確かなのだから。

大学入学早々、文化勲章受章者の秋山先生と平井先生、そして気鋭の万葉学者吉村先生と佐々木先生の講演や出版、研究、講義に、かなり深い部分で関わり合う、つまり責任重大ということになる。


祐君は、見る限り、あまり身体は強くなさそうだ。

芯は強い、と思う、でも、それにも限度がある。

平井先生の原稿仕上げに熱中して、倒れて(あの時も一歩間違えれば危険な)怪我もした。

あの怪我は、隣に住んでいても、防げないなあと思った。(そうかといって、一緒の部屋も・・・難しい)


千歳烏山でおりて、一緒にアパートまで歩く。

祐君が、口を開いた。

「純子さんは・・・佐々木先生の仕事は・・・無理ならいいです」(ショボン声だ・・・少しムッとした)(また、変な遠慮しとるな・・・あかんよ・・・もう他人やないでしょ?)

だから、ギュッと腕を組み、思いっきり胸を押し当てる。(ここぞという時の胸爆弾や!)

「何言うとる?心配で見ておれんもの、一緒にやろう」(言葉もキツめ、強めにした)

祐君は、前を向く。

「ありがたいです、ほんと、巻き込んでしまって」

少し間があった。

「どれから手をつければいいか、考えないと」


アパートが見えて来た。

「一緒に入っていいかな」(そう言わなくても、入る、そう決めとる)

祐君は慌て顔。(この顔も好き、ブチュってしたくなる)

「あ・・・はい・・・」


そんな話をしていると、明太子女が出て来た。(このいい時に・・・邪魔な女やなあ)

明太子女

「どげんした?祐君、顔が真っ青や」(おーーー!いきなり博多弁?)


祐君だと、話がモタモタするので、私が「カレコレ(田中朱里も含めて)」説明。


明太子女は、キッパリ。(このスパッとした決断の速さは、気に入っとる)

「社会人講座ねえ・・・手伝う、そういうのは学外でも協力できるけん、まかせて」

「祐君と私たちの三人で仕事したほうが、よかよ」

「さっさと打ち合わせするばい、あ・・・博多の御菓子も持って行く」

「祐君の好きな梅ヶ枝餅もあるけん」

(・・・まあ・・・テキパキと・・・話をまとめてしまった)


・・・で・・・いつもの三人の話になった。


祐君は、大宰府名物の梅ヶ枝餅に可愛い笑顔。(ほんま、美味しそうに・・・うれしそうに食べる)

「これ、大宰府の叔父さんに教わって、好きになりました」(・・・うん、確かに美味しい・・・うちも和菓子屋の娘、品質の良さはようわかる)

「あ・・・ごめんなさい、話を進めます」(その慌て顔も、キュンキュンする・・・うふふ・・・)


「源氏と古今と万葉が二つ」

「スケジュールも決めないと」(さっきよりは、落ち着いた顔や、ホッとする)


「時間割みたいやね、祐君が現代語訳、うちと真由美さんが補佐」

明太子女

「私は、写真もあって、挿絵も書こうかな」

そのまま、スケッチブックを見せてくれた。

太宰府天満宮や大宰府政庁跡、博多湾、大濠公園のスケッチもある。


祐君の目が開いた。

「え・・・すごい・・・味がある・・・いいなあ・・・」

私も、これには驚いた。

「真由美さん・・・天才?すごく優雅な・・・引き込まれる」(お世辞抜きや・・・さすが美大やなあ)


明太子女は、話題を変えた。

「それでね、その田中朱里さんって、きっと名古屋嬢と思うよ」

「名古屋嬢は、名古屋の名家のお嬢様で、大切に育てられ、ブランド品、ブランド男が好き、成り上がりは認めない、数代前からの名古屋の名家だけを信用する」

「とにかく我がままに育てられて来て、派手で、自己中で、実力は疑問符がつくけど、プライドだけは高くて、あつかましい、そんな感じ?」


祐君は窓の外を見た。

私は、「あ・・・そう言えば・・・」と、納得している。


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