第177話佐々木先生のお願い①

私、田中朱里は、祐君の「困った顔反応」が、全く解せなかった。

「マジ?佐々木さん・・・」のつぶやきも、意味不明。

「佐々木さん」は、先生だよね・・・と思うけれど、まさか「お知り合い」とは思えない。

むしろ、「先生」を「さんづけ」で呼ぶなど、「礼を失した」反応ではないか?と思う。

(礼儀正しい祐君だから、そこが解せない)(この時には、祐君が、あの高名な森田彰子さんの息子とは知らなかった)


さて、その「佐々木先生」が入って来た。

祐君は、少し顔をあげて、また講義資料に目をやるだけ。(つまり佐々木先生には、特別の反応を示さない)


ただ、佐々木先生は、講義会場(大教室:人気のある先生なので、受講者も多い)を、少しキョロキョロして、私たちの方を見て「ふふ」と笑顔。(私たちは、後ろの方に座っている)


そのまま講義を始めた。

内容は、万葉集第一巻の構成などから始まり(実にわかりやすい解説だ、素人の私でもスンナリだ)そのまま、冒頭歌雄略天皇御製とされる伝承的な妻問い歌「籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくしもち・・・」に進む。

佐々木先生

「古代の婚姻習俗で、万葉集の冒頭として、このおめでたい歌は最適でしょう」

「この大らかで、力強い明るさに満ちた早春の歌」

「この言霊の国を、将来にわたって、言寿ぐことにもつながっています」

「この歌そのものに、大和の国の、子孫繁栄の呪力が込められていると思います」


私は、「うんうん」と頷くし、祐君の反対側の隣の豊胸女性も、しっかり聞いている。

でも、祐君は、下を向いたまま、あまり表情を変えない。


私、田中朱里は推測した。

「祐君・・・万葉集なんて、全くわからないの?」

「どちらかと言うと、お父様の影響でカメラかなあ」

「それでもいい、かの有名な、森田哲夫さんの息子さんとの交際なら、名古屋に帰って話しても、自慢できる」

「名古屋弁丸出しの下心見え見えの名古屋男より、いい」


二首目の、「天の香具山~」に進んだ時だった。

祐君が、隣の女性にポツリ。

「この歌も写真付きかな」

隣の女性の反応も速い。

「うん、真由美さんも、そんなこと言っていた」


私は「この歌も」で「?」、「写真付き」でも「?」、「真由美さん」でも「誰?その女」だ。

「そもそも万葉集を知らない祐君が?」なので、「どういうこと?」と、ツンツン脇をつつきたくなる。(でも、講義中なので、何もできない・・・)


それと、不思議なことは、佐々木先生が講義中に、「チラチラ」と祐君の顔を見て来ること。

(でも、祐君は無表情なので、佐々木先生はムッとしたり、苦笑したりだ)


・・・そんな状態で、講義が終わった。

私が「さあ、今度こそデートに誘うぞ!」と気合を込めていると、祐君と隣の女性が一緒に立ちあがった。(え・・・何?どういうこと?また消えるの?)

私がオタオタしていると、「不思議」が起こった。


「祐君!」(佐々木先生が教壇から、パタパタと祐君に向かって歩いて来た)


祐君は、「はぁ・・・」と笑顔。(やはり、知り合い、それも深い?)


佐々木先生は、満面の笑顔、そのまま祐君の手を握る。

「おひさ!それから、ようこそ!私の講義へ!」


祐君は、苦笑。(それも・・・可愛い!意味ありげで・・・そそるよ)

「佐々木さん・・・いや・・・先生・・・途中の文は・・・」


佐々木先生は、祐君の頭を撫でた。

「うん、祐君の文がきれいだから・・・丸写し・・・えへへ」

「著作権ないし」(・・・まったく・・・どういうこと?先生が生徒の文を講義資料に?)


祐君は、はぁ・・・とため息。

「かなわないなあ・・・」


佐々木先生は、まだ話があるようだ。

「ねえ、私の部屋に来て、お願いがあるの」

「お友だちも来ていいわよ、両手に花?」


祐君は、また困った顔になっている。

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