第160話祐の朝は・・・

翌朝7時、まだ夢の世界の住人だった祐の耳に、スマホの電子音が響いた。

「誰?」といいながら、スマホを取ろうと、手をベッドのあちこちに動かす。

しかし、寝ぼけ頭の祐は、不器用だ。

そのまま、ツンと触ったところまではいいけれど、スマホはベッドの下に落ち、電子音を響かせ続ける。

「面倒だなあ」と思うので、祐は身体を傾けてベッドの下のスマホを取ろうとする。


・・・が・・・やはり、朝の祐は不器用だった。

そのまま、ドスンとベッドから転がり落ちた。


おまけに信じられないことは続くものだ。

スマホの画面には、従妹の「恵美」の表示。

「はい・・・祐です」

「恵美ちゃん・・・はや・・・はやいね」(祐は、この時点でも噛んでいる、ロレツが回っていない)

「何か・・・あったの?」(真面目な話ではない、と思うけれど念のため)


恵美は、さすが、ハツラツの女子高生だった。

「あのさ!祐ちゃん!」(この大声で、祐の頭は割れた)

「私も伊東に行くの!」

「準備できた?」

「まっさか・・・寝ていたの?」(あーーーうるさい!と思っても、まだパジャマだ)


「どうして、伊東情報が?」

恵美の声が弾んだ。

「伊東の芳江おばさんから・・・祐ちゃんが彼女二人連れて来るって!」

「あなたも来る?って」


しかし、祐は、まだ。寝ぼけている。(二度寝の欲求が強い)

「わかった、じゃあ、よろしく」(眠いので、声に力がない)


恵美は、また声を大きくした。

「だめーーー!眠いんでしょ?」

「私、今、千歳烏山の駅から歩いているの」

「だから、あと3分で着く」


祐の目が、開いた。

「え・・・何で?」

「恵美ちゃんが、千歳烏山に?」

「何かあったの?」(要するに寝ぼけていたので、恵美の話も、ほとんどわかっていなかったらしい)


恵美(あまりの寝ぼけ祐に呆れた、祐の様子も察知した)

「早くして!」

「いいから着替えて!」

「グズグズしていると、瞳姉さんに言いつけるよ!」


最後の瞳姉さんが、強力な効果を発揮した。

祐は、「超高速モード」で着替えに成功。(恵美が祐の部屋のチャイムを押すと、ほぼ同時)


ただ、祐は恵美にまた叱られることになった。

「あのさ・・・その寝ぐせ・・・」

「私が電話しなかったら」

「ここに来なかったら・・・」


祐は、「うん」とだけ。

ようやく、顔を洗う。(恵美に、とても口ではかなわない)


ただ、恵美も気をつかった。

「はい」とテーブルの上に、おにぎり三個。

「親父が握ったの」


祐は驚いた。

「料亭のおにぎり?恐れ多い」


その祐のお尻を、恵美がポンと叩く。

「ほら!さっさと食べて!」


どちらが年上かわからない、そんな従兄と従妹の朝になっている。

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