第150話祐君は(旧知のはずの)超美少女田中朱里に、塩対応、軽くいなす。

そんな緊張感が大教室とはいえ、周囲の学生たちの注目を集めてしまったようだ。

「あの可愛い子と・・・あれ?あの男の子もメチャ可愛い、お人形さんみたい」

「男の子の隣に座っている女の子は・・・まあ・・・いい感じ」(そのまあ・・・って何や!気に入らん!)

「アイドルみたいな女の子が迫って・・・お人形さんの男の子が、意味不明顔?」

「アイドルの女の子がフラれた?マジ?」(確かに祐君の対応が、塩過ぎるけど・・・マジに知らん?でも、祐君の本名を言うんだから・・・そこまでの塩対応は、あかん・・・うちも善人やから)


祐君が、首を傾げながら、ようやく反応した。

「ごめんなさい、思い出せない」

「どうして、僕の名前を?」


するとアイドル美少女は、赤い顔。

「あの・・・田中朱里です・・・覚えていないの?」


祐君は、まだ思い出せないらしい。

「そう、名前を言われましても」

「田中・・・朱里さん・・・うーん・・・ごめんなさい」


私、純子は、ここまで来て、アイドル美少女「田中朱里」さんが、可哀そうになった。

「ねえ、田中さん、みんな見ているから、座って」

「講義も始まりそう」


祐君も、気をつかった。(とにかく注目されているので、許す!)

「僕の隣でよければ」(少したどたどしい・・・でも、どうでもいい感じがわかる)


田中朱里さんは、顔を赤らめたまま、祐君の隣に座る。(この講義限定だよ、後は許さん!と思った・・・いや、思っていた)


そんな、モヤモヤとした気分の中で、「神社と祭りの精神史」の教授が入って来て、講義。

熊野神社の話だった。「熊野」は日本中どこにでもあるとか、墓地の意味で普通名詞だったとか、熊野大社には出雲にもあって、出雲が本家かもしれないとか、いろいろ(本来は面白い話)をしてくれるけれど、祐君の塩対応と田中朱里さんのガッカリ顔が気になってしかたがない・・・そのまま講義が終わった。(この講義の後は、祐君も私も講義はない、帰るだけ)


鞄に教科書を入れて立ちあがった祐君が、田中朱里さんに。

「あの・・・もしかして・・・名古屋の?」


「名古屋の?」と言われた田中朱里さんの色白の顔が、再び赤く染まった。

「はい!熱田神宮でお逢いしました!」

「中学3年生の時です」

「祐さんは、お父様の哲夫さんと一緒」

「私は、その時の着物のモデルで・・・」


祐君が、少し微笑んだ。(まあ、可愛いこと、さっきの塩より進化した)

「そういえば、思い出した」

そして苦笑した。

「酷い目にあった」


田中朱里はニコニコ。(マジにうれしそうや、気に入らんけど)

「祐さんも、突然着物を着せられて」

「私の相手役をと・・・お父様に言われて」(マジ?でも、嫌がる祐君が想像できた)


祐君

「僕、樟脳の匂いが苦手で、頭痛になるから」

「ずっと辛くて」(ようやく、細かい部分を思い出している、のん気な祐君や)


すると、田中朱里が祐君に迫って来た。

「どうでしょうか、どこかで落ち着いて昔話を」(おい・・・それは・・・祐君はうちのものや、許せん・・・)


祐君は、ニコッと笑う。(ますますあかん!と思った)


・・・ただ・・・田中朱里にも、うちにも予想外の対応やった。


祐君は「少し、急ぎのコアな仕事がありますので・・・また日を改めて」

と言い切り、「純子さん、帰ろう」と、スタスタと歩き出す。


私は、(お人好しやから)田中朱里に、少し頭を下げた。

「ごめんなさい、アルバイトなの」


田中朱里さんは、真っ赤な顔で、立ち尽くしていた。


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