第148話真由美の美大入学式に、森田哲夫氏が来賓!

私、真由美は、興奮気味である。

それというのも、美大の入学式に、かの森田哲夫さんが、スピーチをしているのだから。


「うわ・・・キリッとしてかっこいい!」

「息子さんの祐君は、甘い美少年・・・美少女風の顔だけど」

「いいなあ・・・声にも張りがあって」

「うん、基本をしっかり身に付けて、感性を磨いて・・・はい、わかりました!」

(周囲の同じ新入生も、森田哲夫さんは、ビッグネーム、熱心に聴いている)

(でも、私は、息子さんの祐君の隣の部屋なんて教えない)

(下手に教えて、私より美人とか可愛い子が、押し掛けて来ても困る)

(恋敵は純子さんと春奈さんで、もうたくさん!)


森田哲夫さんのスピーチは会場を沸かせたけれど、その後はひっそり気味に終了した。

事務局から、超ハイスピードで書類を貰った私は、祐君にメールした。

「お父さんの哲夫さんが来賓でスピーチしたよ」

祐君の返事も早かった。(うれしい!)

「へえ、そうなんだ。しっかり話せた?」(祐君のほうが、タドタドしいのに(笑))


「会場は盛り上がったよ」(事実だし)


祐君

「ありがとう、家族として」(ふふふ・・・少し、大人ぶっている?美少女風の顔で)


「サイン貰いたいなあ、せっかくだから」(楽屋に押し掛けたい、だから連絡を取ってもらいたい・・今すぐに)


「あはは・・・字は下手だよ」(それは祐君は字は上手、でも、そういう意味でない)

「でも、間に合うかどうか、メールするよ」(うんうん、やはり祐君は良い子だ)


私は、ドキドキして、祐君の次のメッセージを待つ。

・・・が・・・しかし・・・来ない。(連絡がつかないの?哲夫パパは忙しいの?)

周囲の同じ新入生たちは、どんどん帰り始めているし、メチャ焦るし・・・


諦めようかな・・・と思っていると、朗々とした良く響く声がステージの方から。


「菊池さんかな?」


「あ!は・・・はい!」(声が裏返って、噛んでしまった)


超イケメンの、憧れの・・・それよりなにより祐君のパパの森田哲夫さんがスタスタと私の前に来た。

「森田哲夫です」と、さわやかにご挨拶。


「あ・・・菊池・・・真由美です」(もう、ドキドキして噛んじゃう!祐君の意地悪!)


「祐がお世話になっているようで、ありがとう」


「あ・・・いえ・・・こちらこそで・・・はい・・・」(意味不明、顔が真っ赤だ)


「今後も、頼みます」(哲夫パパはキラキラして、かっこいい)


「こちらこそです、ありがとうございます」(もう、もっと話したいけれど、雲の上の人・・・無理!)


哲夫パパは、にっこりと笑い、そのまま大学のお偉いさんの群れの中に姿を消してしまった。

(サイン貰うの忘れた・・・情けない)


すぐに祐君にメッセ。

「お父さんと逢った、来てくれた」

「緊張して、サイン貰うの忘れた」


祐君

「わかった、叱っておく、ごめんね」

「調子はいいけれど、忘れっぽいの」


「いや・・・恐れ多い・・・そんなの」(私も、書いて貰うものを、出さなかった)


入学式からの帰り道、私は大宰府の母に連絡。

「祐君のお父さんが来賓で来たよ」

母は興奮気味。

「え・・・哲夫さん?あのイケメンの?」

「うわ・・・・サイン欲しい」(これで母もイケメン好きだ・・・)


「貰い忘れた」


「はぁ・・・情けない・・・ほんのこつ・・・」

「博多の女が、そんな意気地のないことで」(そう思うけど、緊張したから)


私、真由美にとって、そんなうれしいような、情けないような入学式になってしまった。

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