第144話春奈のアプローチは、かわされる

翌日の午前10時、祐のスマホにメッセージが入った。

相手は、風岡春奈だった。

「今日の夜は、予定あるの?」


祐は、履修登録の検討で、純子と一緒だった。

なかなか、すぐに返信はできない。


それでも、1時間ぐらいして、返信。

「いろいろあって、不明です、今日は約束しかねます」

(祐としては、秋山先生の講演原稿を、今夜に取りかかりたいと思った)

(古今和歌集については、次の予定が来週の土曜日、まだ余裕があると考えた)



春奈は、納得しなかった。

「逢いたいし、話もしたい」

「時間を作って欲しい」


そんなやり取りで、祐が困り顔になるのを、純子は見逃さない。

「私から、電話しようか?」


祐は、首を横に振る。

「用件の具体的なことがわからない」


返事が遅れた祐に、春奈は我慢できなかった。

直接、電話をかけた。

「ねえ、何やっているの?」

「何の用事があるの?」

(春奈自身、言い過ぎ、と思ったけれど、祐と逢いたくて仕方がない、言い出したら止まらなかった)


祐は、出来る限り、穏やかに返事。(何故、そこまで春奈が怒り口調なのか理解していない)

「大学の履修登録とか、案外悩んで、難しくて」

「そんなことで、気持ちが落ち着きません」

「できれば、春奈さんには、落ち着いた気持ちで接したいかな、と」


春奈は、反論が難しい。(落ち着いた気持ちとは何?私を特別に思っているの?と思うけれど、祐の真意が見えない)

しかし、それで春奈も、少し冷静に戻った。

「でもさ、履修登録って、夜までかかるの?」


祐は、また穏やかな返事。(たどたどしい感じではあるけれど)

「まあ、今日中には終えたいなあと・・・案外悩みます」

「文学的な講義ならいいけれど」

「経済学も、一つか二つ、とか」

「見知らぬ世界なので」


春奈は、その祐の返事が面白くなった。

「あのさ、ますます逢いたくなった」

「お手伝いしようか?」


しかし、祐は、サラリとかわす。

「とりあえず・・・もう少し自分で考えてから、ご連絡します」

「春奈さんの顔も見たいけれど、これは自分のことなので」

(春奈さんの顔も見たいは、完全なリップサービスだった)


その「リップサービス」が、すごく効いた。

春奈の顔が赤くなった。(直接対面では見せられないほどに)

「ああ・・・そう・・・」

「じゃあ、連絡待っているね」


でも、春奈は、祐との会話を終えた後、自分の「中途半端さ」に不安を覚えた。

「祐君、実は、純子と真由美と仲良くかも」

「・・・いかん、こんなことでは」

「連絡がなかったら、押し掛けるかな」(結局、元の木阿弥になっている)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る