第137話秋山先生の家を辞して

祐は、秋山先生の講演のお手伝いをすることになった。

講演は、月に一度の定例的なもの、場所も銀座とのこと。

祐は発表原稿や、資料の整備点検。

アルバイト料は、かなり高め。

純子と真由美が、受付などのスタッフとして、手伝うことも決まった。


秋山先生の家で、お昼をいただいた。

奥様が「若い人のお口に合うかどうか」と、散らし寿司だった。

祐は食べたことがあったので、食は祐なりに普通に進んだ。

祐が心配していた純子と真由美は、祐以上に食べた。


昼食後、祐は長居しなかった。

理由は、「原稿のチェック」。

秋山先生は、祐の肩を叩き、「頼むよ」と満面の笑顔。


奥様に、昼食のお礼を丁寧にのべ、秋山先生の家を出た。

夫婦で、祐たちが見えなくなるまで、見送ってくれた。


少し歩いて、祐は二人に謝る。

「ごめんね、また巻き込んでしまって」

「都合だってあるのに」


純子

「そんな・・・すごく光栄な仕事よ」

「一生に残る。秋山先生とお話して、仕事までご一緒だもの」

真由美

「もう、緊張して来た」

「何か、自分が高まったような・・・祐君のおかげだけど」


「しっかりやらないとね」

純子

「奥様の散らし寿司、美味しかったよ」

「前に先生のお宅に伺った時も、散らし寿司だった、名物、得意料理かな」

真由美

「お米も味付けも、キリッとした感じ、博多の甘い醤油でもなく、いいなあと」

純子

「ねえ、真由美さん、次は奥様のお手伝いしようよ」

真由美

「うん、しよう、奥様に負担掛けさせたくない」


祐は、うれしいような、複雑な気持ち。

平井先生や秋山先生と「仕事」をするのは、確かに実に名誉なことと思う。

「望まれて」のことなので、祐は、断ってもよかったはず。

しかし、高齢の先生夫婦を、悲しませたくなかった。

断ったりしたら、「人としての情に欠ける」、そんなことまで思ってしまった。

それでも、「これが自分の本当にやりたいことなのか」については、大きな疑問がある。


少し肌寒い四月初旬の風が首筋に当たる。

「明日は入学式か」

「武道館で、くしゃみもできない」


祐は、そのままアパートに帰りたかった。

しかし、純子と真由美は、お洒落なカフェを見つけたようだ。


純子

「祐君、あそこ!」

真由美

「わーーー!可愛い!入ろう!」


祐は、とても、「自分だけアパートに」とは言えなかった。


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