第117話祐の本心と春奈の反応

祐は、春奈の評価については、実は気にしていない。

姉瞳が口にした「父さんと母さんのメンツ」も、本当は全く考えていない。

何より、「自分は大学一年生の、入学式もまだ、の人」「ブログの源氏にしても、枕にしても、万葉、古今、新古今にしても、あくまで素人が勝手に書いただけ」で、何の責任も無いと思う。

できれば、秋山先生の話も含めて、「役不足、勉強不足」と判断され、「仕事、作業」から解放されたい、実は、そんな気持ちのほうが強い。


その「ダメだし」をされたほうが、前途は明るい、とも思う。

そろそろ日本の古典から離れて、全く違う勉強もしたい。

美術も嫌いではないから、あちこちの美術館も見て回りたい。

せっかく東京に出たのに、「古典に縛り付けられるのは嫌だ」と思った。

「字ばかり読んでいても」、どうなんだろうと思う。

むしろ、この機会に「ダメだし」をされて、スッキリと別の学問でもいいと思う。

何しろ、万が一にも「源氏物語の世界」に入れば、複雑過ぎる展開を追うだけ、あとは泥沼。

その泥沼で、もがき続けるだけの人生は、したくないのが本心だった。


祐が、珈琲を飲みながら、「逃げる算段」を考えていた時だった。

春奈は、祐の「仮名序現代語訳」を読み終えた。

「祐君」

声が、震えているように感じた。


「はい、酷くて、ごめんなさい」(とにかく、怒られると思ったから、先に謝った)


「そうじゃないの」

春奈の顔も声も、輝いている、張りがあるように感じた。


「と、言いますと?」(祐は嫌な予感、自分の先に大きな岩の門が閉じるような)


「これ・・・いい・・・好き・・・」

「このままで、いい」

「これでこそ、読みたくなる」

春奈は、祐の手を強く握る。

かなり強く握るので、頭の傷に少し響いた。


「はぁ・・・」(自分でも、パッとしない返事と思った)(空腹感も、復活した)


「ねえ、祐君、パソコン貸して」


「あ・・・はい・・・」(祐は、春奈の意図が不明)

しかし、素直にパソコンを起動させる。


しかし、春奈は、そのまま祐の机の前に座り、「このファイル?」と確認。

そのままメールソフトを起動。

「先生に送るよ、はい、完了」

「先生は、今から読むって返事」


祐はここでも、「はぁ・・・」の対応。


でも、まだ先生からの「ダメだし」があると思うので、希望は残っている。


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