第115話姉瞳の泣きながらの電話

懸命に古今和歌集仮名序を読み直している祐のスマホが鳴った。

姉の瞳だった。

最初から、涙声。


「祐?」

「大丈夫?」

「生きてる?」

「この・・・アホ祐!」

「驚いたよーーー!」


「・・・心配だよー!」

「今から、行くって言ったら、母さんも父さんもよせって言うの」

「お前だと、祐が休まらないって」

「マジにむかつくよーー」

「ねえ、大丈夫?」


いつもの大声暴言連続の瞳とは違う。


祐は、また答えに困る。

姉瞳は、この状態になっても、かなり長い。

落ち着いて話す。

「大丈夫、転んだだけ」

「包帯も巻いていないよ」


「そう?」

「心配だもの」

「・・・根を詰め過ぎないでね」


「うん」


「だめ、うん、だけだと」


「でも、ありがと」

「心配してくれて」


「・・・泣かせないでよ」


「泣いているでしょ?すでに」


「うるさい、祐が悪い」


「うん、ごめん」


「連休はつまらないよ」

「大変なんでしょ?」


「うん、手も頭も回らない」

「今も必死」


「父さんと母さんのメンツもあるの?」


「うーん・・・そんなの考えている余裕はない」

「でも・・・」


「でもって?」


「姉貴の声聞けてうれしい」


瞳は、また泣き出した。

そんなことで、祐の「原稿再点検」は、なかなか進まなかった。







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