第112話姉瞳は、祐を不安に思う。

私、瞳は、祐が本当に心配だった。

母さんから祐の事情を聞くと、電話も掛け辛かった。(いつもの文句を言って涙声を聞くどころではない、邪魔をしないのが一番と思ったから)


夜に万が一、「実家に戻れない、ごめんなさい」の電話が来るかなと思ったけれど、何の音沙汰もない。


姉として、ずっと祐を見て来て心配なことは、「一度熱中すると、寝食を忘れること」だ。

ちなみに、我が家は両親の部屋が一階、子供の私と祐の部屋が二階。(だから、私は両親以上に、祐の実態を知っている)


「受験勉強の時もそうだった」

「源氏物語を読み始めた時もそうだった」

「何でも興味を強く持った時は、そうなる」

「あのアホ祐は、限度を知らない」

「それで、身体を壊すし、子供の頃は、それを悔しがって、よく泣いた」

「中学の部活の障害物も、明らかに練習のし過ぎで、本番前に熱中症で倒れた」

「どうしても出るって、病院から泣いて抜け出そうとするし」


瞳は「祐の義理堅さ」も思った。

「後で連絡をするって言っていたのに」

「でも連絡して来ない」

「もう・・・作業を始めたのかな・・・あの性格なら、そうなるな」

「もともと好きな分野ではあるけれど、すごく難しいから焦っている」

「それと、おそらく、母さんと父さんのメンツまで気にして」


瞳は、そこまで思って「嫌な予感」。

「あのアホ祐、変なことになっていなければいいけれど」

結局、それが心配で寝付かれなかった。


朝になったので、スマホに電話をかける。

「朝7時なのに・・・出ない、まだ寝ている?」


9時ごろに、12時になっても、3時になっても、祐は電話に出ない。

ようやく電話に出たのは、午後の4時過ぎ。


「何?姉貴?今起きた」

とぼけた声だった。


「このアホ!心配かけないでよ!」

周囲の同僚、上司が驚くような大声を出してしまった。

ただ、今度は、恥ずかしいどころか、涙が止まらない。

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