第95話平井恵子先生が祐の部屋にお願いに来る、と言う。

祐は、スマホの画面を見て、困っていた。

電話を掛けて来た相手は、和歌研究の大家平井恵子。

平井恵子から、近々電話がかかって来ることや、電話番号は、母彰子から朝早く聞いてわかっていたし、スマホにも登録してあった。


「でも、今?早過ぎる」

「目の前には純子さんも菊池さんもいるし」

「難しい話は、今までの源氏で、頭が疲れている」


しかし、あまり「待たせられる身分でもない」と思った。

純子と、菊池真由美に、少し頭を下げ、電話に出た。


「お待たせいたしました」

「森田祐です」


「はじめまして、でもないですね、子供の頃、お逢いしました」

「私、平井恵子と申します」


「はい、平井先生・・・お久しぶりです、ご高名はお聞きしております」


その「平井先生」の言葉で、純子と真由美がヒソヒソ。

「和歌の?」とか「マジ?」が飛び交う。

とにかく、祐の電話を「必死に聞き取り体勢」になっている。


「それでね、秋山先生とも、あなたのお母様ともお話をしたの」


「はい・・・少し怖いです」

祐は、思わず本音になる。


純子と真由美は、気になるのか、祐に少し近寄っている。


「それでね、急で申し訳ないけれど、今日はお時間あります?」


「え・・・特に・・・午後は大丈夫かと」


「お話をしたいの、どうかしら」


「あ・・・はい・・・では・・・こちらから?」


「いや・・・私が祐君にお願いしたいことがあるの」

「だから、私が祐君のところに」


祐は顔が真っ赤になった。

「お願いとか、僕のアパートとか・・・」

「僕なんかのアパートで?」

「場所はわかりますか?」

どうにも慌ててしまって、話が要を得ない。


「そんな固くならないで、場所は、お母さんからお聞きしました」

「私は、下北沢だから、時間はそれほどかかりません」

「2時ごろでいいかしら」


「わかりました、それではお待ちしております」


祐は、平井恵子との電話をおえて、ドッと疲れた。

「聞かれていた状況」に配慮して、純子と真由美に「概略」を説明。


純子

「平井先生って・・・もしかして平井恵子さん?」

「あの和歌の大先生が?」

菊池真由美も興奮している。

「祐君、すご過ぎ!」

「私も読んだことあるよ、あの先生の本」

純子

「後ろの方で、座っていていいかな、サインが欲しい」

「お茶は淹れます」

真由美

「私も、何か手伝う、お顔も拝見したいし」


祐は、この二人を見て、二重三重の意味で、疲れが増すような予感をしている。


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