第87話菊池真由美のチャレンジ
よく晴れた朝になった。
私、菊池真由美は、窓を開けて、この時期の春特有の、ふんわりとした、それでいて少し肌寒い空気を部屋に取り込んだ。
可愛らしい小鳥の声も、よく聞こえて来る。
「窓を開けると、ますます、いい感じ」と実感。
少しは都内に慣れたかな、と思うし、「ここはかつては武蔵野(そうはいっても、平将門程度の知識しかないけれど)」だったのか、と思う。
「武蔵野の風かな」と思うと、少し背中にザワザワとしたもの(歴史の重みかな?)を感じたりする。
が・・・しかし・・・そんな古代のことを思っていても、仕方が無い。
今の私のターゲットは、「隣の祐君」なのである。
実は、昨晩も「夕飯ご一緒しませんか?」で、祐君の部屋をコンコンとした。(ドキドキしたけれど)
でも・・・いなかった。
どこに行った?と思ったけれど、探しようがない。
また明日、声をかけようと、引き下がるしかなかった。(時には引き際もサッパリしているのだ)
祐君との話題も、実は考えている。
かの、シンデレラ「玉鬘」なのである。(母さんの入れ知恵だけど)
玉鬘は、夕顔と頭中将の娘。
光源氏と夕顔が、京の化け物屋敷で逢瀬、その後、夕顔は何かの悪霊に取り憑かれ、死んでしまった。(六条御息所の生き霊とは違う説を私はとる)
その後、九州、筑紫に流れ、そこで成長。
肥後のゲン、という土豪みたいな男に言い寄られ、命からがら、京に逃げ帰る。
その後、紆余曲折あって、光源氏の六条院に引き取られる。
光源氏に言い寄られたけれど、上手にかわした。
でも・・・手引きをする下女によって、髭黒大将(髭黒も身分はかなり高いけれど、マッチョ系で風情に欠ける)の女になってしまった。(本当は、もっと格の高い場所、人と結ばれる可能性が高かったのに)
まあ、北九州で、肥後のゲンの「女」に「されてしまう」よりは、格段の「シンデレラ姫」なのではあるけれど。
私が、祐君と「語り合いたい」のは、この玉鬘についての、考え方だ。
私は、やはり北九州の女だから、どうしても玉鬘を応援したくなる。
かなり風情に欠ける髭黒の女になってしまったとはいえ、まあ、安定した、その後の一生を送ったのだから。
その玉鬘に、祐君が、どんなコメントをするのか、聞きたくて仕方が無い。
私は、「今度こそ、今日こそ」と思った。
「前進あるのみ」と、部屋を出た。
また、メチャド、ドキドキした。
でも、博多女は、思ったら引かない。
「コンコン」
「菊池真由美です」(ここでフルネームを言ってしまうのが、緊張のため)
少し間があった。
ドアが開いた。
「はい・・・お待たせしました」
祐君は、モデルさんのようなお顔。
キョトン顔で、実に可愛い。
私の胸は、バクバクと鳴り始めた。
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